こたつむり

犬神家の一族のこたつむりのレビュー・感想・評価

犬神家の一族(1976年製作の映画)
3.8
「よし、分かった!やはり遺産相続はドラマだ!」

市川崑監督による金田一耕助作品第一弾。
ということで、本作が“探偵・金田一耕助”を忠実に映像化した、というのは有名な話ですが…なるほど。その評も違わぬほどに完成度が高い作品でした。

黄昏時の闇の深さ。
薄汚い畳、黒ずんだ家具。
戦後すぐの日本に漂う閉塞感。
まさしく横溝正史先生の原作を活かした映像作品。

しかも、原作は。
傑作揃いの初期作品の中でも群を抜いて面白い作品(…自分はシリーズ内で五指に入る作品だと思っています。ちなみに他の四作品は『獄門島』『八つ墓村』『悪魔が来りて笛を吹く』『三つ首塔』)。それを市川崑監督の鋭角なセンスで作り上げれば…否応が無しに傑作に仕上がるというものです。

だから、序盤から。
壁と床の隙間からドロっと侵食してくるような冷気が漂っていて、落ち着かない気持ちになるのですね。そして、それが最高潮に盛り上がるのは、やはり“スケキヨ”の登場でありましょう。あの仮面を映像化しただけでも本作は価値があると思います。

でも、映像化して気付くのは。
石坂浩二さん演じる《金田一耕助》が、あまり役に立っていないことですね…。連続殺人を止めることは出来ないし、真相披露するときの爪は甘いし(お約束と言えばお約束なのですが…)、偶然に頼っている部分もあるし…ということで、“颯爽な活躍”とは程遠いのですな。

とは言え、主軸は“探偵の活躍”ではなく。
横溝正史先生の原作が持つ“お化け屋敷の中を歩くような雰囲気”の再現。活字を目で追ううちに物語世界に没入し、遠くから聞こえる“電線の震える音”に恐怖する…そんな筆致の映像化が見どころなのです。

まあ、そんなわけで。
ミステリの古典として存在感溢れる作品。
どの角度からでも楽しめる秀作でした。
あと、一癖も二癖もある登場人物たちを演じきった役者さんたちに、惜しみない賛辞を。特に坂口良子さんの可愛らしさは反則級でありましょう。当時21歳ですか。なるほどなあ。むふ。

To be continued…→→→『悪魔の手毬唄』
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