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ヒストリー・オブ・バイオレンスのRのレビュー・感想・評価

4.7
久々に見てみた。2回目。やっぱおもしろい。独特の魅力がみなぎってる。クローネンバーグらしいネチッこさがたまらない。冒頭、二人の男がモーテルからチェックアウトするシーンから、異様さがぷんぷん漂っている。ひとりの男が車から出てチェックアウトに行き、もうひとりは車の中で待っている。車に帰って来た男が、ウォーターボトルの水がなくなってるな、中にサーバーがあったよ、じゃあオレが取りに行ってくる、と今度は待ってた方がフロントに行く。中に入ると殺された店員が二人ころがっている。全く当然のことのように、男はサーバーから水をボトルに入れる。と、混乱して怯えた幼い少女がドアを開けて出てくる。男は少女にピストルを放つ。ここまでがオープニング。わーお。ゾクゾク! 主人公のトムは、弁護士の妻と、息子と娘と、ごくごく普通な生活を送ってて、田舎町のダイナーで働いてる。ある日、客が数人いる閉店間際のダイナーに、冒頭の二人がやって来る。突如暴力行為に走り始めた彼らから、トムは咄嗟に拳銃をうばい、逆に彼らを撃ち殺す。トムはその事件で英雄扱いされ、メディアに取り上げられるのだが、それを見たマフィアがトムに会いにやって来る。久々だな、ジョーイ、と、トムに話しかける。……え? ジョーイ? だれ? 序盤からねっとり謎めいた雰囲気が最高で、トムの英雄的行為による人体破壊がリアルにグロく描かれることで、大々的に賞賛されるトムに、ちょっとした違和感を覚えずにはいられない。で、ダイナー事件と、ジョーイという名の謎のせいで、少しずつ家族との関係がおかしくなっていくプロセスが興味深く、特にトムが思わず息子をぶってしまうシーンはすばらしい。バイオレンスがじわじわウィルスのように伝染し、それを止めるためにバイオレンスに頼らざるを得なくなる。「バイオレンスに頼らざるを得なくなる」ということが、謎に満ちた本作の最大のテーマになっている。トムという男のヒストリーオブバイオレンスを描くことで、個人も国家も含む、全世界のヒストリーオブバイオレンスの実態を描き出し、ラストの晩餐シーンは、まさに清濁併呑の悪が支配する、非常に象徴的なシーンで、その苦々しさはすごい強烈さだ。俳優達の演技は、誰も彼もビックリするくらい魅力的で、トムを演じるヴィゴモーテンセンの繊細かつダイナミックな尻のエロス、奥さんのマリアベロの中年チアリーダーのエロス、そしてふたりの69。マフィアを演じるエドハリスとウィリアムハートは本作の最高の魅力で、最高級の存在感、すさまじい俳優力。ふたりともほんの少ししか出て来てないのに、映画全体の印象を支配するインパクト。喋り方と声がサイコー過ぎる。あと、ペンキで塗ったようなベタッとした色彩の陰影に富んだ映像が寓話的な雰囲気を醸し出してて見応え抜群、いつもは派手なハワードショアの音楽が本作ではかなり抑制された感じで、それもそれで良かった。この映画の醸し出す具合が悪くなりそうなほどの異様なムードは、苦手な人もいるかもやけど、確実に一見の価値アリと思われます。わたしは是非ともまた見たい。
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