曇天

ブッシュの曇天のレビュー・感想・評価

ブッシュ(2008年製作の映画)
3.5
『華氏911』などのマイケル・ムーアのドキュメンタリーを観ていく中で参考に鑑賞。
学生時代から自由奔放、父親の世話した仕事はどれも長続きしない典型的なドラ息子。メジャーリーグの球団オーナーをやった後、父親の大統領選を手伝う形で徐々に政治の道に入り、95~00年のテキサス州知事、で2001年1月に第43代大統領に就任。

焦点が当たるのはとにかく父親との関係性、優秀だった父親と比べられる度に嫌悪感を示している。原題も「父親じゃないWの方」という意味の『W.』で、タイトルでも強烈に区別している。記憶力は良いという描写はあるが政治に関して自論を語るような場面は皆無で、お世辞にも素質があるとは言えない描き方。むしろ短気をおこしてわめいたり汚らしくバーガーを食んだり、やっぱり喜劇的に描かれる。馬鹿に見られている元大統領だから喜劇的に描いた方が観客としては気味がいいだろうが、そこはオリバー・ストーンだから気品ある喜劇になってる。通しで観れば、いくら偉くなっても父親に認められない苦悩の男の伝記映画なのだが、同時にそれは3万以上の米兵死傷者と10万以上のイラク民間人犠牲者を出す無駄な戦争をして国家に汚名を着せた国のトップの話でもあるので、ただドラ息子の話というだけでは済まないんだよ。

1年かけてイラク戦争の正当性を訴えてCIAのでっちあげた国連報告を根拠にして、イラク戦争をやりたがったのは誰でもないブッシュなんだけど、いざ大量破壊兵器がないことが確実になったシーンになるとこんな奴でも可哀想に見えてくる。フセイン自身のハッタリであったことや衛星写真の見間違いが露呈していく中でブッシュは明らかに動揺していて、どうやら彼も本当にあるものと信じていたように描かれているから。その能力のない者が不適任な役職に間違って就いてしまったというような哀しさがあった。『フロスト×ニクソン』でも思ったけど自分は大統領が失敗を認めるシーンに弱いようだ。

かなり引いた位置からとはいえかなりブッシュに同情的に描かれている。それはアメリカの貧困やら軍需産業やらの問題描写が全く出てこなかったことにも言える。その辺はやはりドキュメンタリー寄りの資料で補うかしないとならない。

猿顔の大統領をゴリラ顔でどこか情けないジョシュ・ブローリンがやるっていうのはハマっていて良かったんだけど、ブッシュ本人がこんな情けない顔するところが想像できないのが腹が立つ。ジョシュ・ブローリンの名演名情けな顔を見て溜飲を下げるくらいしか役に立たない映画。ブッシュなんぞの伝記映画にオリバー・ストーンを使ってるとても贅沢な作品とも言えます。
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