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マイ・ルームのkomoのレビュー・感想・評価

マイ・ルーム(1996年製作の映画)
4.5
オハイオに住むリー(メリル・ストリープ)は美容師の修行をしながら2人の息子を育てるシングルマザー。しかし忙しさゆえに家庭をあまり顧みれず、長男のハンク(レオナルド・ディカプリオ)に反抗心を抱かれている。
そのハンクが18歳の誕生日の直前、自宅に火を放ち少年院へと送られてしまった。
困惑するリーの元へ、姉のベッシー(ダイアン・キートン)から電話が。彼女は白血病に冒されていて、リーたち家族に骨髄移植のドナーとして適正検査を受けてほしいという。
リーは少年院からハンクを連れ出し、次男も連れてフロリダの実家へと向かう。
姉の病は治るのか。もし治らなかった場合、姉が面倒を見てくれている父と叔母の介護を自分が引き受けなければならないのか。
姉妹が確執に揺れる一方、ハンクはベッシーの誠実な人柄に心を開いてゆく。


医師役で出演しているロバート・デ・ニーロがこの脚本に惚れ込み、自ら製作に当たったという作品。名優たちの迫真の演技によって、普遍的な家庭のテーマが重くのしかかってきます。
自分の親に対して情や責任の念を抱くのはとても大切なこと。けれど親の老後の世話は100%の『義務』というわけではなくて、すべての人に平等に訪れるものでもありません。
結婚して遠くへ行ってしまったリーと、独身で実家に残っているベッシー。必然的に後者が親の面倒を見てきたという状況。
これまで介護にノータッチであったリーには、非難されても仕方がない要素があるかもしれません。とは言えリーも2人の子供を育てるために大変な努力や苦労をしてきたのは事実であり、その価値自体は揺らぐべきではないと思います。
だからこの問題はとても難しいです。

つらい介護をしてゆく中で、不満や苦しみを直接口にする人もいれば、誰にも言えずに溜め込むタイプの人もいると思います。物語当初、ベッシーは後者でした。
『たったひとりで親をみている』という事実は彼女を孤独にさせていて、リーとの再会を辛いと思うほどであったベッシー。それでも無理に笑い、リーたちを明るく出迎えます。しかし会話をしてゆくうち、やはり2人は親の今後をめぐって衝突してしまいます。
そんな2人が和解して笑いあえるようになった時、ベッシーは「私は幸せ者よ。父と叔母が側にいてくれて」とリーに告げました。

最終的にベッシーの病がどうなってしまったかはわかりません。しかし彼女に最期の時が来てしまうとして、それは愛する家族の中で迎えられるものなのだろう。
ラストシーンの光景から見られるように、ベッシーは『自分の部屋をキラキラ輝かせる』強さを持った女性でした。

『マイルーム』という邦題は、当時すでにマイ・◯◯というタイトルの映画が多数あったためそれに乗っかって付けられたもののようです。『沈黙の〜』みたいな。
けれど良いタイトルだと思います。
人は幼い頃には皆、親の部屋の中で育つもの。やがて自立して『自分の部屋』を持った時、今度はそこで自分の子どもを守らなければならない。もしかすると、子どもはそこを拒むかも知れない。
リーにとっては、そんな複雑な『マイルーム』が実家から離れたオハイオにあった。そんなお話。
そして親から独立したマイルーム、謂わば自分のテリトリーに再び親を招き入れる勇気があるか。そんなお話でもありました。
自ら進んで骨髄ドナーになろうとした次男のチャーリーは、きっと自分の領域を他者に譲ってあげられる人物なのだと思います。

自分の家に居場所を見出せなかったハンクが、恋愛とも親族愛ともつかない信頼関係をベッシーと共に築こうとしたということ。それも彼が作りたかった『部屋』の在り方なのかもしれません。
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