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あにいもうとのkaomatsuのレビュー・感想・評価

あにいもうと(1953年製作の映画)
4.0
原作は、室生犀星が1934年に文藝春秋に発表した短編小説「あにいもうと」。罵り合いやケンカでしか愛情表現ができない、もどかしくも不器用な兄と妹の絆を描いた不朽の名作だ。1936年、木村荘十二監督によって『兄いもうと』として映画化されて以降、何度かリメイクされているが、最もポピュラーなのは、成瀬巳喜男監督による、この1953年版『あにいもうと』ではないだろうか。

愛情ゆえ、ズボラな妹に罵詈雑言を浴びせ、挙げ句の果てに手を出てしまう兄・伊之吉。上品なインテリや優男の役が多い森雅之にしては珍しく、喧嘩っ早い男・伊之吉を好演。これに対して、一歩も引けを取らない妹のもんを演ずる京マチ子が、これ以上ないハマり役。健気なもんの妹・さんを久我美子が演じ、無骨な人間ドラマの中に清涼感をもたらしている。

昨今、大人のきょうだい同士の大ゲンカなどあまり見られないけれど、私は恥ずかしながら、いい歳して兄としょっちゅう派手なケンカをしていたので、伊之吉ともんのように、身近な存在だからこそつい無遠慮になり、ああ、またやっちゃった、言いすぎちゃった、という自責と後悔の念が、痛いほどよく分かるのである。家族とは暖かい反面、実に厄介なり。

実はこの映画、個人的にとてもゆかりの深い、二つの地域で撮影されている。ひとつは、私が20年間住んでいた、神奈川県某市の多摩川べり。もうひとつは、私の大学時代の通学路だった、小田急線のとある駅から大学までの間の、細い畔道だ。なじみ深い場所を、60年以上前の名作映画の中に見出せたのは、新鮮な驚きだった。
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