三四郎

大平原の三四郎のレビュー・感想・評価

大平原(1939年製作の映画)
4.3
これぞ映画。映画でしかできないことは何か?それは壮大なスケールの大いなる物語である。壮大で元気な曲とともにレールの上を進みゆくクレジット。この物語がアメリカを東西に結ぶ鉄道敷設の物語であることを印象付ける。異色の西部劇らしいが、西部劇は男のロマンだね。
ジョエル・マクリーかっこええ!!ピストルを抜き取るとこ、素早さ、構え全てがきまってる。もう惚れ惚れ。

西部劇が男たちに好まれる、あるいはアメリカ人の心を熱くするジャンルだということがよくわかった。日本で例えると「時代劇」なのだろう。私はもっと時代劇を見なければいけないな、と感じた。その国民の血を揺さぶる感動は、男たちの闘い、男のロマンで綴ることのできる物語の中にあるような気がする。西部劇は、西部開拓を主題とし、頑強な男たち、ギャンブル、煙草、馬、鉄砲、そして美しき女一人いれば作ることが可能だ。そう感じた。出稼ぎに来ている男たちは実に単純な輩だなぁ笑 もう泥臭く汗臭い男の世界。私が好きな都会的洗練されたスマートな映画とは程遠いが、 いいなぁ!
上手いのは、キザな芝居をヒーローではないもう一方の男にさせていることだ。それにより、どう考えても勝ち目のない劣っている男が人好きのするキャラクターになっている。 どうしてもキザなことをしたい時は、ヒーローではない方にやらせれば一つの作品に好みを全て入れ込むことができるのか!と気づいた笑 もちろんやりすぎは禁物だが。

暴れている男にマクリー(ジェフ)がピストル無しで歩み寄って一芝居打つシーン。あの時のあの安心するバーバラの姿、表情、なんて可愛らしいんだ!どんな表情でもできるし、どの表情も胸を貫く素晴らしい女優だ。

2時間以上の大作だから一難去ってまた一難。脚本の書き方について考えさせられた。そんな余計なことを私に考えさせたということは、少し物語が冗長だったのだろうか?ひとつ言いたいのは、ディックの役どころについて。彼は完全に敗北しているのだが、それに気づいてもいるようだが、気づいていないようでもあり、気づいても気づかぬふりをしているようでもあり、将又ただの一途なバカにも思える。自分を愛していない女に、しかも親友を愛しているのがものすごくわかるにもかかわらず諦めない…奇妙にしか思えない。単純なバカなのか、気のいい奴なのか…。やはり最近、私はこういう役には影のある情けのある悪人になってほしいな。そして偽装結婚みたいなことをして仲間を裏切り、親友を助けようとしたというような展開であってほしいなぁ。話に収拾がつかなくなるのかしら?

最も良い場面は、二人の男、それに他の二人の男も加わり、バーバラが必死に殺し合いにならないように一芝居打つところだろう。ファムファタールを演じる女優とは思えないほど純情で可憐な娘を演じていた。もちろんマクリーを、自分を偽っても犠牲にしても愛しているから…。このシーンだけにタイトルをつけるなら「命の限り」「命に代えても」「骨まで愛して」そんなキザなクサいものにしたい。インディアンに襲われて、弾が一発ずつ減っていく…このシーンにはもっとこだわっても良かったのではなかろうか。私なら、「俺はあと三発」「俺はあと一発だ」となった時、その一発一発を撃つたびに三人に数えさせたり、引き金や銃口を強調したりして、観客とともに一発の重みと緊張を考えさせる演出をしたいなぁ。まぁ、これがこの映画における本当のクライマックスではないからそんなビフテキみたいな重厚な演出はせずにスマートにいったのだろうが。この時、彼女はずっとマクリーにばかり話しかけている、助けが来た時もマクリーに抱きついて喜ぶ、ここでディックの感情や表情描写を一ミリもいれないのが素晴らしい。そういれないくて良いのだ。そんな道案内みたいなことをしなくても、映画好きにはビリビリ伝わってくるし、女心がわかる人なら微笑ましく見てられる。
最期がまた意味深だ。ディックは一人で行って元の仲間に撃たれて死ぬ。マクリーは背後から狙われるが、仲間によって助けられる。誠実なマクリーには、どんな時でも仲間が付いていた。たとえ一人だろうと必ず仲間がいるのだ。これがこの映画の筋の暗示した副主題ではなかろうか。 「無事だったのね!ディックは?」「俺たちを待っているよモーリー、終着駅で…」死臭がする奴二人組と一緒に行動していたので、マクリーが最後に死ぬのだと途中まで思っていた。あるいはその相棒二人のうちバーバラと妻の話をしていたヒゲ男が。結婚式のあたりから、死ぬのはディックだと思い始めた。しかし、どういう風に結末をつけるのか想像できなかった。

さあマクリーとバーバラは親友にも父親にも祝福されて結婚することができる。そして人生の終着駅にはディックが待ってるだろう。アメリカの歴史について語った壮大な物語なり、いくつものプロットを一つにまとめ上げた大作と言える。汽車が電車になって終幕。
この作品、コメディ要素もあって最後まで期待を持たせつつ、また誰が死ぬのかわからない作品となっている。傑作でもあり名作かもしれぬ。
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