こたつむり

姿なき殺人者のこたつむりのレビュー・感想・評価

姿なき殺人者(1965年製作の映画)
3.0
閉ざされた空間。
一体ずつ減っていく十体のインディアン人形。
果たして最後まで生き残るのは誰なのか?
彼らを招いた館の主人の正体は?
推理小説界に燦然と輝く名作『そして誰もいなくなった』をアレンジして描かれた物語。

今更、僕ごときが書く内容ではありませんが。
『そして誰もいなくなった』は誰もが認める本格推理小説。ミステリファンの末席に連ねる身としては、“この名作を基にしている”と聞けば鑑賞するのは義務に等しいわけです。

だから、事前に芳しくない評価を耳にしても。
言い訳と脳内補完を駆使する“依怙贔屓200%の鑑賞方法”で臨めば大丈夫!

というわけで。
たとえば、まるで学芸会のような殺人場面も。
本作の主眼は謎解きですからね。殺人場面に現実感とか重厚さとか緊迫した雰囲気は不要なのです。また、製作年代(1965年)を考えたら、こういう演出でも仕方がないのです。大切なのは“どのような手段で死んだのか?”なのです。

たとえば、緊迫感の欠片もない音楽も。
本作の主眼は謎解きですからね。脳細胞を回転させるためには落ち着いた環境が必要なのです。だから、ほんわかした音楽は、観客が論理的な思考と向き合うためには最適なのです。大切なのは“思考に至る証拠が何処に存在するか?”なのです。

たとえば、物語としては不要に思えるお色気も。
これは重要なヒントなのかもしれません。何せ尺が短い(上映時間90分超)のに、わざわざ描写するのですからね。安易なサービスシーンではなく、製作者の高度な判断により描かれた伏線の可能性もあります。大切なのは“マザーグースの童謡は何を謡ったか?”なのです。

まあ、そんなわけで。
何よりも本作で一番嬉しいのは、あの名作を映像化するという心意気。登場人物や舞台の設定は変わっても、原作の持つエキスを再現しようとしている努力は見えますので、やはり低い評価は付け辛いのです。

だから、出来得ることならば。
小学生向けの『推理クイズ』を映像化…くらいの感覚で鑑賞するのが良いのでしょう。犯人の正体を論理的に導き出しても良し。直観で答えても良し。惨劇の向こう側に残るのは誰か?能動的に推理すると楽しめる作品だと思います。
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