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ネレトバの戦いのmhのレビュー・感想・評価

ネレトバの戦い(1969年製作の映画)
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ファシズムに対抗するパルチザンの奮闘がテーマの戦争巨編であり、ひいてはユーゴスラビアの建国神話。
ユーゴ版「ヨーロッパの解放」という認識で間違ってないと思うんだけど、「ヨーロッパの解放」よりも一年先んじてるのがまずは驚くポイント。
大量のエキストラと現役兵器を投入した、途方もないスケールの戦争スペクタクルはこっちのほうが元祖だったのだ。
①ドイツ国防軍
②イタリア軍
③ウスタシャ(クロアチアのファシスト政党。黒い制服とのことだけど、黒シャツ隊とは別)
④チュトニク(セルビアの将兵からなる反共組織。チェトニックとも)

チトー率いるパルチザンはこれらを相手に戦っている。
③がほんとにやばくて、このとき絶滅収容所をつくってセルビア人に対する民族浄化をやってたらしい。アインザッツグルッペンもドン引きする苛烈な虐殺だったらしいけどこの映画では言及なし。いっぽうチュトニクもクロアチア人を迫害している。(これがクロアチア人とセルビア人の対立の始まりっぽい。のちにユーゴスラビア紛争(1991-2001)の下地になる)
起伏に富んだ国土を埋め尽くす兵や、延々と続く難民の列や、ほんとうにぶっ壊してる民家や鉄橋とか、スケールが桁違い。
ユーゴスラビアの戦争映画というよりも国家事業。
ただ、ストーリーがほんとうにあかん。
銃撃戦で怪我すると「ダニカ(ヒロイン)助けてくれ!」といって、意味不明に呼び寄せるみたいなことを三回くらいやってりゃダニカだって撃たれて死ぬってば。
腸チフスにかかるかどうかがもうひとつのサスペンス要素になってるんだけど、この設定は珍しい。腸チフスが流行したのはほんとうなんだろうけど、どのあたりまでを信じていいのかわからない。
ただ、みんなで歌を歌いながら戦うシーンは、限りなく胸熱だった。民族の垣根を越えられる唯一の思想――共産主義とチトー将軍が同時に存在したからこそなしえた奇跡だ。この体験があったからこそ、多民族国家ユーゴスラビアが長いこと存続したのだろうね。
戦車マニアのみなさん的にもマストらしいけど、長いこと、ソフト化されなかった(=VHS化されなかった)伝説のタイトルとのこと。
個人的にはウスタシャとチュトニクという知識に触れたのがいちばんの収穫でした。
面白かった!
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