b

ジョニーは戦場へ行ったのbのレビュー・感想・評価

ジョニーは戦場へ行った(1971年製作の映画)
4.7
ジョー・ボーナムは戦場へ行った。

そして目、耳、鼻、口、舌、腕、足を失った。
彼に残されたのは頭と胴体そして生殖器のみだった。
手足、味覚、嗅覚、視覚、聴覚を失った。即ちほぼすべてを失った。

本人の言うところの意識のある肉塊、乱歩の芋虫とかを思い出したけどそれより酷い。

物語冒頭治療室のシーン、彼が既に全て失った状態から始まり彼の回想や妄想、または独白によって物語が進行する。

戦争に行く前のまだ彼が健常者だった時の彼の彼女や父親との記憶や、牧歌的とすら感じる妄想と対比される現在の痛ましく悪夢的な状況。現在のシーンは白黒で、回想などの彼のイメージした映像はカラーで描かれる事でその痛ましさは強調される。

私は常々選択肢が失われる事が本当の不幸だと思っている。彼にはまさに選択肢など残されていなかった。手足がなければ仕事は出来ないし、彼女を抱き締めることさえ出来ない。なにより手足、嗅覚、聴覚、視覚がなければ当然一人では生活が出来ない。故に病院のベッドの上で寝たきりでいることしか出来ない。
彼に残されたのは考えることしかなかった。彼はひたすら考える。どうすればこの先やっていけるのか....そして彼が最終的に辿り着いた選択肢はただ一つだった。

この映画は自分にとってどんなホラー映画よりおぞましく恐ろしかった。そして今一度戦争が残すものとは何なのか鮮烈に考えさせられる映画。その内容から容易く人に勧められる映画ではない。しかし出来れば多くの人に観て欲しい映画である事は間違いない。


ちなみにタイトルの「ジョニー」と言う名前は原題の元になった第一次世界大戦時の志願兵募集の宣伝文句であるJohnny Get Your Gun(ジョニーよ銃をとれ)から来ていて主人公とは関係ないらしいです。
筒井康隆の「生きている脳」はこれよりも惨憺たる状況ですが、酷過ぎて笑えるのが本作の後味とは違う。
b

b