フライ

運動靴と赤い金魚のフライのレビュー・感想・評価

運動靴と赤い金魚(1997年製作の映画)
4.2
貧しい家庭に生まれた可愛らしい兄妹の話は、小さな緊張感と、微笑ましさに、終始ニヤニヤして鑑賞してしまう素敵なストーリー。

イランの貧しい家庭に生まれた少年アリは、病気の母親に頼まれたお使いで妹ザーラの壊れた靴を直してもらった後、八百屋に寄り、外に荷物を置いて小さな芋を選ぶ事に夢中に。ところが買い物が終わり荷物を確認すると靴だけがなくなっている事に気づく。
アリは家に帰りザーラに説明すると、父親に言うと脅されるが、怖い父親を恐れお互い何も言えずに諦める。毎日行く学校に、男女時間差で始まる事を利用し、アリの汚い運動靴を交代で履く事でしのごうとするが、ザーラは学校が終わると兄の待つ自宅に必死で走り靴を渡し、アリは遅刻しながらも必死で学校まで走る毎日を送る。
そんなある日アリの学校では、地域対抗で学校を代表した生徒がマラソンで競い、3位までに入賞すると、景品が渡される大会が催されることになるのだが。

本作には色々な魅力が詰まっていて興味深く楽しめたのは勿論、観ていてほのぼのする素敵なストーリーに心から癒された。
イランの文化や習慣を伺える色々なシーンは、日本では見られない所も多くとても興味を引かれた。特に宗教的な理由で、学校を時間で区切り、完全に男女別々で学ぶ所を作品内で利用する展開に面白さを感じた。貧富の差は世界共通の問題だが、それを学の無い父親と、学校では優等生なアリを上手く見せる展開も良かったし、ラストの皮肉にも思えるシーンも素晴らしかった。
何より一番魅力を感じたのは、秀逸に描かれた人物描写だが、特に主人公の兄妹アリとザーラが素晴らしく、愛おしさを覚える色々なシーンに釘付けにされてしまった。余りにも素直に描かれた二人に、大人になると分かる小さな事も、子供にとっては世界の終わりかと思える位一大事だった事を思い出させるシーンに、可愛らしさと同時に切なさを覚え、ノスタルジーに浸れた。
途中で何回も俺が買ってあげるよ!と思っている自分自身がとても滑稽にも思えてしまった。
終盤が本当に素晴らしが、そこで終わるのか?と思える素敵なラストに思わず地団駄を踏みたくなると同時に、心温まるものが。

ベタに思える展開がとても秀逸な上、兄妹だけではなく色々なシーンの結び付きが素敵で、心に染みるのが本当に良かった。
多分自分の中にある、昔の素敵だった日本や人々を思い出させるのが、本作から感じられたのが尚更良質に思えたのかも。

近年感じるイラン映画の素晴らしさに、これ迄偏見から見て来なかった自分に、情けなさを覚えるが、こう言う素敵な作品と出会う度に少しでも色々と鑑賞し、取り戻したいと強く感じてしまう。
何よりフィルマで皆さんから教えて貰えた事がとても大きいので感謝、感謝、感謝!
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