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天井桟敷の人々のマツタヤのレビュー・感想・評価

天井桟敷の人々(1945年製作の映画)
4.0
幕があがるとそこは晴天のなか人が溢れかえる賑やかな犯罪大通りから物語がはじまる。

映画としては普通のシーンかもしれないけれど、そもそも公開年が1945年でこの映画がつくられたフランスは戦争中パリを中心としてナチスに占領されていた。この映画は非占領下の南仏のニースで撮られ、当時パリにいた映画関係の人達はこのニース(一度行ってみたいニース)に逃げユダヤ人や外国人は山奥に逃げ込みひそかに活動し、そんな状況下でつくられたのだから普通のシーンとは畏れ多くて言えない。この映画はそんな激しい戦禍の中、監督や脚本家達が夜な夜な秘密の宿屋に集まり、周りにはナチスのスパイうようよしていた危険の中、ひそひそと作品を作り上げていったわけだから。

そんな監督マルセルカルネと脚本家ジャックプレヴェールのコンビは「詩的リアリズム」と名づけられるフランス映画の黄金時代を築き上げた人たちで、この「詩的」って言われるぐらいジャックプレヴェールの考えるセリフは全編、詩を読んでいるように優雅!
そしてそこに美術を担当したアレクサンドルトローネルが映画のセットを作り上げ、戦時下のどこでこんな大通りの街並みが、見世物小屋やパントマイムなどの芸人で混み合うにぎやかな通りを作り上げたか、物も不足していた時代だろうしある意味1番この映画の功労者な気もする。
そんな中、映画の中では何度も主人公のバチストのいる一座の劇が映されるのだけれどこれが幻想的で素晴らしかった。例えるなら具沢山でカラフルなニース風サラダがあたかもそれだけで主食になり得るようにこの演劇自体で映画が成立しているかのよう。一切ものをしゃべらないパントマイムを演じるバチストが劇場の外になるとガランスに愛の言葉を語りまくるところもまたこの映画の真骨頂。バチストとヒロインのガランスがうっとりするようなセリフで語り合うところを見るとやっぱりジャックの詩が土台にあってそれを生かすべく監督や美術が作品を作り上げていった感じが伝わってくる。

豪華なセットはこの大作にふさわしい威厳を感じるけど、実はすぐそこにヌーヴェルヴァーグという50年代の幕開けが控えているのも運命みたいな感じ。撮影所やセットなんかそっちのけで隠しカメラをもって街頭でロケをするのだから、この映画とはまったく真逆をいっている時代がすぐそこまで来ていて、そんな映画の歴史の流れが本映画を通して知ることもできる。

初めての公開はシャンゼリゼ通りにあるマドレーヌ座とコリゼー座というところで、2部構成からなる3時間を超える作品を別々ではなく連続で上映していたから、きっとこの映画見終わったあと劇場から出るとそこはさぞロマンチックなフランスの夜の街だったんだろうなとも考えると、はぁ〜って溜息が出てくる。溜息だけじゃ物足りないからサラダでも食べよう🥗
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