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天井桟敷の人々のほーりーのレビュー・感想・評価

天井桟敷の人々(1945年製作の映画)
4.2
高校一年のころ、映画好きの化学のおじさん先生がおりまして、よく休み時間に映画トークをしてよく盛り上がった(この頃から年寄りキラーだったのです)。

ある時僕が「2時間以上長い映画ってだれますよね」と言ったら、先生から「だけどお前、『天井桟敷の人々』は面白いぞ」と言われたのが記憶に残っている。

そう、「天井桟敷の人々」は面白いのである。

最近はそうじゃないみたいだけど、1990年代までは映画ベスト100みたいな企画になると堂々の第1位に輝いていた「天井桟敷の人々」。

こういう紹介をされ過ぎて、かえって敷居が高くなっちゃって損してるように思う。

70年以上前のモノクロ映画、芸術的なフランス映画、尺が3時間以上と、食指が伸びない要素が目白押しだが、ちょっと踏み出して観てみれば、意外とサクサク観れちゃう。

人間の色々な部分、嫉妬とか欲情とかプライドとかを全部ミキサーにかけたようであり、その味わいは悲しい味がしたり、どこか可笑しい味もする。

19世紀のパリ、通称、犯罪大通りと呼ばれる繁華街の劇場をそれこそ舞台に、美貌の女芸人ガランスをめぐる4人の男たち。

これがそれぞれタイプが違う。

パントマイム役者のバチストは、口下手で自分の気持ちを上手く言葉を伝えられないが、心優しい青年。

シェイクスピア役者のフレデリックは、バチストとは対照的に饒舌で、女にモテモテのプレイボーイ。

戯曲を書いてるフランソワは、文章を書かせれば天下一品だが、実は強盗や人殺しもする悪党。

伯爵のモントレーは、他の3人のような才能はないが、財力も地位もある大富豪。

映画は2部構成となっていて、第1部はガランスがこの4人のうち1人と結ばれることになる。それは一体誰なのか?

そして第2部は数年後、再び男たちの前に現れたガランス。4人の男たちの運命の歯車が再び回り始める、しかも加速度的に……。

会話劇が主体であり、正直映像としては特段すごいシーンはないのだが、何しろ脚本があの「枯葉」を作詞したジャック・プレヴィールだけあって、その台詞が全部見事な美文(勿論、翻訳つきサ!)になっている。

例えば、劇中、フレデリックが女をナンパする時の文句が、

「人生は素晴らしい。あなたも人生と同じくらい素晴らしい」

普通、こんなこと言えますかいな(笑)

自分もどちらかというと人前では口下手な方なので、やはりバチストに共感してしまう。

ガランスを慕う気持ちは人一倍あるのだが、それを上手く気持ちを伝えられずにいる姿につい自分を重ねてしまう。

ちなみにバチスト演じているジャン・ルイ・バローはフランス演劇界の大御所でありますが、本当に草なぎクンにそっくりだと思う。

■映画DATA==========================
監督:マルセル・カルネ
脚本:ジャック・プレヴェール
製作:フレッド・オラン
音楽:モーリス・ティリエ/ジョゼフ・コズマ
撮影:ロジェ・ユベール/マルク・フォサール
公開:1945年3月9日(仏)/1952年2月20日(日)
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