晴れない空の降らない雨

天井桟敷の人々の晴れない空の降らない雨のレビュー・感想・評価

天井桟敷の人々(1945年製作の映画)
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 カルネ監督&プレヴェール脚本の最高傑作であり、いわゆる1930年代の詩的レアリスムの集大成、とされる。3時間に及ぶ大作であることや、実在の役者と犯罪者を取り上げたこと、占領下で製作され戦勝の解放感とともに公開された経緯など込みで、とにかくフランス映画史に残る大傑作と呼ばれている感。個人的にはそこまで響かず。でも、さほどダレずに見通せたからやっぱり大した作品なのかもしれない。
 
 確かに、大犯罪者ラスネールのナルシシストぶりを示すセリフや、フレデリックからガランスへの口説き文句、乞食が毎回変えて名乗る二つ名とか、いくつか良いセリフはある。結局それぞれが取り残されるラストも余韻がある。
 でも、終盤の流れで、なぜアイツとアイツが決闘するのか分からなかった。全体をみても、第1部と2部の対応関係とかモチーフの反復といったストーリー上の工夫が足りない。通してみると、1部と2部の最後でガランスの運命が対応しているのだが、そこを伝えるアクセントがないから、何となくで話が進んでいるように見える。
 ラスネールとフレデリックは語り継がれるのも分かるが、主人公2人の描写については疑問で、バティストが、ガランスはともかく最初からナタリーから愛されていることに説得力がない。ガランスが現れる前からバティストにその気がないのも同様。
 また、パントマイム役者という設定も生かせておらず、必然性が見当たらない。せっかくの劇中劇の使い方も平凡で、ルノワールみたいに凝った仕掛けや洞察があるわけでもない。最初バティストが舞台袖を目撃して固まってしまうシーンや、嫉妬さえ役作りに昇華してしまうフレデリックの俳優魂の見せ方は悪くないけど、2度目にバティストが芝居を放り出すのは芸がないし、正直イライラした。
 
 セットはお見事。これまたプレヴェールと並びカルネ作品を支えてきたアレクサンドル・トローネルの設計による。あくまで自然主義的なスタイルでありながら、庶民的な親しみやすさと薄暗さをともに醸し出している。大通りのシーンが白飛びしている気がしたけど、パリが使えず南仏で撮影したそうで、そのせいかな。