海老

Mr.インクレディブルの海老のレビュー・感想・評価

Mr.インクレディブル(2004年製作の映画)
3.8
今の環境によく合う上に、近く続編も公開されることもあり、子供と一緒にレンタルで再鑑賞。
初鑑賞時は20代。今になって観ると、色々と見方も変わって来るものです。

爽快なヒーローの活躍劇に仕込まれた、案外染み入るストーリー。

かつては誰しもの憧れの的であり、英雄だったスーパーヒーロー達が、時代の流れで立場を追われ、華々しい生活から一転、社会に溶け込み個性を封殺する生き方へ。冒頭、「時々平凡な生活に憧れるよ」と皮肉めいた事をインタビュアーに応えたボブに降りかかるのは、あまりに冴えなくて、彼の正義感が仇にしかならない保険会社への転職という意趣返し。コミカルながらも、十数年間の年月をかけて、誰にも認められず世の中に嬲り殺しにされるような描写は苦々しい。人々なんて助けず株主を助けろと言い放つ、資本主義の権化のような上司は、ボブの正義感と対比で際立つ憎たらしさ。黒字の為なら人も騙す下賤の輩に、かつての英雄がかしずく構図は、社会の恥部を風刺しているかのよう。

堕ちるべきところまで堕ちたからこそ、這い上がる展開は「信じられない」程に気持ちいい。

これはヒーローとしての再生物語であり、家族の成長物語であり、信じて認める大切さを説く話でもあります。

Mr.インクレディブルなんて邦題が付いているものの、原題は「the Incredibles」であり、ボブ一人ではなく家族の物語。超人一家が大活躍して悪者をやっつけるストーリーだけでも痛快で、インクレディブルの剛腕、イラスティガールのしなる体術、ヴァイオレットの超能力、ダッシュの走力には、娘も目を輝かせながら見入っていたものです。家族の連携プレーで、これまで抑圧されていた能力が画面狭しと暴れ回るのは爽快でしかない。

そこに加えて、家族それぞれの成長というスパイスが絶妙に効いていて、親の立場からも目頭の熱くなる展開の多い事。

子供達の成長。最初は自分勝手な好奇心、そこから家族を守る意思が芽生え、両親の背中を見て人々を守る使命に昇華していく。喧嘩ばかりの姉弟が、互いを救ける為に身を投げ出す姿、その土壇場で能力に目覚める約束された展開には視界が滲む。
母親の成長。傍目には駄目な夫を支える良識ある妻とも見えるものの、彼女もまた、信じて認める事の難しさ、大切さを鑑賞者とともに学ぶナビゲータだったように思える。
そして父親であるインクレディブルの成長。
ヒーローも人間であり、誰かに認められたいと渇望するのは最強の英雄でも同じ事。その意識ばかりが先行しては本質を見失い、大切なものを壊しかねない事は、まさにその道を貫き、踏み外してしまった敵役のシンドロームが象徴的。インクレディブルが道を踏み外さずに済んだのも、信じて認めてくれる妻や子供達の支えがあったからに思え、原題「Incredible」の「途方も無い」「信用できない」の意が導いているように思えてならない。家族を守り、家族に頼る姿は人間らしく、英雄らしい。

スーパーヒーローでも、そうでなくても、家族を守るという使命は「途方も無い」こと。
ラストシーン、普段着をはだけた中から覗くヒーロースーツは、家族にとって父親はいつでも内面にヒーローを秘めているのだと比喩されているよう。彼のような怪力が無くても、誰しも子供のヒーローになれるのだから。

さて、僕も頑張ろう。
休日はヒーロータイムだ。
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