三四郎

家族会議の三四郎のレビュー・感想・評価

家族会議(1936年製作の映画)
4.7
素晴らしい!この作品の演出は見事だ。この作品を観て何故島津保次郎監督が偉大と言われているかがわかった。これを観たのをきっかけにもう一度『婚約三羽烏』『浅草の灯』『朱と緑』を観直すと、1回目に観たときよりも更に都会的センスのある洗練された優れた作品であることがわかった。

横光利一の作品を映画化しているが、「文学の映画化」の成功例ではないだろうか。
原作よりもラストが洒落ていて印象に残り続ける映画的ラストシーンとなっている。
高杉早苗が最後、佐分利信と及川道子に背を向け歩いて行き、つと立ち止まる。後ろで組んでいた手をほどき、軽く握った右こぶしで二度右太ももを軽くたたく。少し考え事をしているかのように。
そして振り返り一言残して哀しみをこらえドライブへ飛び出して行く。高杉の名演技だ。もう見事としか言いようがない。高杉は佐分利のことを心から愛している、しかし親友のために、親友の幸福のために犠牲になったのだ。
車を無我夢中で飛ばすラストシーンが彼女の心理描写だろう。島津監督、最高の演出ここにあり。

さて、もう一つ印象に残るシーン。
桑野通子が佐分利に結婚を申し込み、断られ、怒り、哀しみ、悔しさでサイダーの入ったグラスを握りしめ、割ってしまい、そのガラスが指に突き刺さり出血する。そして割れて血のついたグラスをアップで映す。その前のシーンでは、断られて絶望した桑野の顔を悲劇的な音響「ジャーン」という大音量と共にアップで捉え、すぐに佐分利の厳しい顔、そして気まずく正面から左(窓外)へ目をそらし、もう一度キャメラは桑野の呆然とした顔を映し出す。実に凝っており、悲劇を最大限に描き出している。

また東京対大阪の構図ができている。最初押され気味、圧迫されている東京側佐分利、その他の二人の女性は和服、大阪側は佐分利の幼馴染及川を除いて主な登場人物の高杉と高田は洋服。及川の父親が亡くなった時、高田は和服になり佐分利は洋服。その時の優勢・劣勢で洋服と和服をチェンジしているようにも思える。
また東京を古風に大阪をモダンにしているとも言える。及川は佐分利と結びつく運命だからこそ、東京側に合わせて一貫して和服なのかしらん。
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