砂

倫敦(ロンドン)から来た男の砂のレビュー・感想・評価

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タルベーラの名は今年はとくに説明不要であろう。光と影、反復する音や動作、風、人物を前もしくは後ろから追い続けるショット…などなどがひたすらじっくりとしたロングショットで表現される、という特徴は本作でも余すことなく堪能できる。

本作において特に印象に残るのは「窓」だろう。ある種の境界を象徴している。観察する者である主人公が事件の顛末を覗いていたのは窓で、事態の変化を知らせるカットも窓であり(これが非常に美しい)、ホテルでは進行する捜査を窓のある仕切が隔てていた。最後に境界を越えるあたりが非常に巧みで唸る。また表題のロンドンから来た男の主体が、オープニングと同じ構図のカットを境に切り替わるのも巧みでこれまた唸った。あえて人物の背後から移して顔が見えない会話だったり、過剰な程に無言の表情を写し続けるなど対比で行間を語るというスタイルであるため、集中力をもって見続ける必要がある(しかもワンカットが長い)。それでも食い入るように見続ける力があった。

なお後に「ニーチェの馬」で主演の娘役を演じたエリカ・ボックはこちらにも出ており、全然印象が違ったので驚いた。こちらの映画もまた食事シーンは全然おいしそうではなく、試練を描いていた…。
研ぎ澄まされた高コントラストなモノクロの映画ゆえ、本当に光と影というものを知っていなければできない画を強烈に撮りあげている(カメラマンの力量もすごいのではないかと思う)。引退なんていわずまた映画を作ってほしい。7時間18分あっても観に行くから。
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