【わが火の戦車をもて】
こうして、彼らがなお進みながら話していると、なんと、火の戦車と火の馬が現れ、この二人の間を分け隔て、エリヤは竜巻に乗って天へ上って行った。
エリシャはこれを見て、「わが父、わが父、イスラエルの戦車と騎兵たち」と叫び続けたが、エリヤはもう見えなかった。彼は自分の衣をつかみ、それを二つに引き裂いた。
[第二列王記 2章11〜12節]
神の人の召使いが、朝早く起きて外に出ると、なんと、馬と戦車の軍隊がその町を包囲していた。若者がエリシャに、「ああ、ご主人様。どうしたらよいのでしょう」と言った。
すると彼は、「恐れるな。私たちとともにいる者は、彼らとともにいる者よりも多いのだから」と言った。
そして、エリシャは祈って主に願った。「どうか、彼の目を開いて、見えるようにしてください。」主がその若者の目を開かれたので、彼が見ると、なんと、火の馬と戦車がエリシャを取り巻いて山に満ちていた。
[第二列王記 6章15〜17節]
まず最初に報告を。
僕はクリスチャンホームで生まれ育ったクリスチャン二世で、教会の礼拝堂を使って映画鑑賞会を開いたりしている。
そして先月末、6/30に2024年パリオリンピック開催に合わせて本作を解説したので、その時に話した内容をここに投稿させていただきます。
1982年のアカデミー作品賞を受賞したスポーツ映画の代表作。
今から丁度100年前、1924年に開催されたパリ夏季オリンピックで金メダルに輝いた二人のランナー、ユダヤ系イギリス人のハロルドエイブラハムスと、中国出身のスコットランド人宣教師エリックリデルが、イギリスの超有名大学ケンブリッジに入学してから、オリンピックで勝利を勝ち取るまでを描いた物語。
ヴァンゲリスが作曲したテーマ曲なら、誰もが一度は聞くであろう名作だ。
さて、本作の題名である『炎のランナー』
元々の原題は『Chariots of Fire』であり、直訳すると"火の戦車"という意味あいになっている。
この火の戦車というのは、詩人ウィリアムブレイク作詞『エルサレム』の、"わが火の戦車をもて"の一節からだが、更に言えば、旧約聖書の第二列王記に記されている、預言者エリヤとエリシャの箇所から。エリヤが天に昇る瞬間と、エリシャが敵に町ごと包囲された瞬間に現れる、神の軍勢の火の戦車からとられている(※最初に引用した箇所)
走ることで栄光を勝ち取り、真のイギリス人になろうとするユダヤ系のハロルドと、神に栄光を還すため「日曜日は走らない」と告げ、本来とは別の種目で走ることを決意するエリック、この二人を火の戦車になぞらえている訳だ。
さて、ここである一つの疑問が浮かび上がる。
なぜこの二人を火の戦車に喩えているのかと。
それは、実は本作には"戦争"という裏のテーマが隠されてあるからだ。
物語のはじめ、二人が大学に入学するシーンでは、1919年というテロップが入るが、この年は第一次世界大戦が終結した翌年であり、物語のラストでは、エリックが第二次世界大戦中に旧日本軍占領下の中国で亡くなられたことが説明される。
人類史上初の世界大戦の爪痕が残る中で、次の世界大戦の火蓋が切られつつある時代。
彼らにはそんな偏見と分断が蔓延する、不安定な世界情勢が絶えず付き纏っていた。
そして、決戦の舞台となるオリンピック。
このオリンピックも第二次世界大戦以前は今と違い、国同士が自国の優秀性を競い合い、国威発揚を促す代理戦争としての場が強かった。
1936年にはヒトラーがオリンピックをプロパガンダとして政治利用し、ナチスの力を世界に見せつけ、ユダヤ人に対する迫害が加速するまでに至る。
また、開催地であるパリは、1894年にユダヤ人最大の冤罪事件であるドレフュス事件が起きた場所であり、ユダヤ系のハロルドにとってフランスで戦うことは、今までの雪辱を晴らす思いもあったに違いない。
(※ただ、この事件によってあのシオニズム運動が起きたことも覚えておく必要がある)
そのような争いの時代、正にエリシャが敵に包囲された時と同じ危機的状況下において、信念と信仰を貫く二人の選手は、自分のためでも、国のためでもなく、この世の不義に立ち向かうために、神の武器である火の戦車をもってこの戦いに挑み、そして勝利した。
コーチが話した「俺たちは今日、世界を征服した」の台詞からは、そんな意味合いが込められていると確信している。
100年経った今でも、地上では絶えず争いが続き、世の中は不寛容で溢れてる。
それ以上に今のオリンピックは、国のメンツを保つために行われる争いの道具の一面が増え、現代社会で起きていることを世間から遠ざけているように感じる。
だからこそ、100年前に彼らが信念と信仰に導かれ勝利したことを覚え、そして僕も彼らと同じ意思を持つ者にへと変えられていきたい。
【余談】
下のリンクは本作の主人公エリックリデルのその後に迫った記事。
日本人にとって目を背けてはならない事実が書かれてあるので、是非とも一度読んでもらいたいです。
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/0f14b0f15e23244a855b0cb370b21078f195022e