LalaーMukuーMerry

炎のランナーのLalaーMukuーMerryのレビュー・感想・評価

炎のランナー(1981年製作の映画)
4.2
音楽がいいね~♫
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1924年のパリ・オリンピックで、陸上短距離種目にイギリス代表として参加して英雄となった二人のアスリート、エリック・リデルとハロルド・エイブラムスの物語。時代と共に社会は大きく変化した。スポーツに対する考えもすっかり変わったのだなぁと改めて感じた。
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エリックはスコットランドの宣教師。ラグビーの俊足ウィングとして既に有名だった彼は短距離走の選手としても活躍することになる。走るときに神とつながるという感覚を信じていた彼は、伝道活動の助けにもなると考え、懸命に練習に励む。聖書の教えに忠実だから決して安息日にはレースをしない。ところが大会プログラムの100m予選が日曜日だった。彼は棄権するしかないと諦めるが、選手団長は国(王)のため、彼のルールを曲げてくれと頼む。けれど頑として受けつけない、王よりも神・・・。これを打開した策は、サラリと描かれますが、とても印象的で心を打つ美しい話。
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ハロルドは名門ケンブリッジ大学のエリート学生だが、父はリトアニアからのユダヤ人移民。イングランド人の中にある、目立たないがはっきりとした差別意識に反発を感じて育ってきた。差別を見返すために、レースで勝ち続けることを自分に課したハロルド。そのためにこの国で最も優秀なコーチをつけて、猛練習に励む。だが、コーチを雇って練習をするということが、よくない事と大学教授からやんわりと注意をうける。彼はこれに猛反発、自分の信念を貫く…
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この場面のやりとりが私には一番気になったところ。プロは専門家でアマチュアよりも上、という感覚が私たちの常識なのだが、当時は全く逆の発想だったようだ。
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もともとスポーツは貴族や上流階級のものだった。貴族(紳士)というのは働かない。何ものにも縛られない自由な(だからこそ尊い)考えは、働かなくても暮らしていける紳士だからこそ生まれる。逆に言えば、お金のために働くようになってはダメ、自由な発想は潰されるということ。だからプロ(お金のために働くコーチ)は卑しい、アマチュアこそ高貴ということになる。「金による勝利よりも、紳士的敗北」とまで言い切る紳士たち。
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その後の歴史をみれば、プロの圧勝なのだけれど、アマチュア精神の理想もある意味ポイントをついていると思えるんだよね。お金のために必死に働きながら、一方でお金から自由になれたらと、もがいている現代社会の私たち。お金のために信条や判断を曲げてませんか?・・・
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スポーツに対する考えは変わったけれど、トップアスリートたちのスポーツに向き合うひたむきさは昔も今も変わってない。その部分に共感できる良作でした。