レミー

DUST ダストのレミーのレビュー・感想・評価

DUST ダスト(2001年製作の映画)
2.0
市のイベントにて鑑賞。上映後に解説があったので、掘り下げて理解することができて、かなり面白かった!
同時に、ある程度の知識がないと難解でワケワカンナイ作品でもある。

喧騒の中のニューヨーク。麻薬絡みで金が必要になった黒人の青年はアパートへ強盗に押し入るが、家主の老婆に出くわしてしまう。老婆は息も絶え絶えで死にかけのくせにめちゃくちゃ強く(!)、青年は逆に銃で脅され鼻を一発でへし折られ、なぜか不可解な物語を聞かされることとなる…

見始めての第一印象は、細部まで徹底的にこだわり抜いているということ。映画の冒頭、カメラが騒がしい夜のニューヨークのから一つのマンションにたどり着くと、舐めるように移動して窓越しにそれぞれの生活の営みが映し出される。やがてある一室にズームインする。男が強盗に押し入った部屋だ。この冒頭のシーンはかなりカッコよくて、すごくワクワクしたし、映画全体にこだわりポイントがたくさんある。
でもこだわりポイントの主張が強すぎて全体像はちょっと分かりにくく、理屈で撮った映画という感じがした。映画学校の先生が撮ったみたいだ。(と思ってたら本当に教鞭をとっているらしい)

この映画は主に上記のニューヨークのシーンと、マケドニアを舞台とする老婆の物語の2つに分かれる。
特にマケドニアの方のストーリーは、地理関係や宗教についての知識が問われるので、解説で教えてもらった事と調べたことを軽くまとめておく。(ネタバレあり)

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まずマケドニアというのはバルカン半島に位置する小国で、歴史上ローマ帝国の一部になったりオスマントルコに征服されたりと、民族の出入りの激しい土地であった。
東方正教の重要な拠点であると共に、ムスリムの文化も存在する国だ。
時代設定は19世紀後半から20世紀初頭のオスマン統治時代のイリンデン蜂起(1903)あたりなのかな。

オスマン帝国は宗教の自由はあったものの、基本的にはイスラム教の国なので正教会への弾圧が強くて、正教会信者たちがマケドニア人として独立するために革命を起こしたのがイリンデン蜂起。第一次バルカン戦争へと繋がる契機となった。

主要な登場人物は、喧嘩っ早い兄ルークと信仰深い弟イライジャ、娼婦のリリス。そして宣教師(蜂起の先導者)の妻ネダである。
ルークの由来はルカで、イライジャは預言者イリヤ。ちなみにイリンデン蜂起は聖イリヤの日に起き、イリンデン自体が聖イリヤの日を意味するとのこと。
で、言われるまで気づかなかったんだけどリリスはそのまま聖書のリリスなんだよね。映画の中のリリスは弟と結婚し子をもうけるが、兄と不倫。最終的に妊娠したままわざと溺れて自殺してしまう。
物語が聖書になぞらえて作られているというのが分かる。

ルークとネダ、宣教師は革命で殺され、ネダと教師の子アンジェラだけが取り上げられイライジャが引き取って育てることになる。その子供アンジェラこそが、黒人青年に話を聞かせる老婆だ。

不可解なのが、アンジェラがニューヨークで孤独に死にかけているってこと。大聖人たちの守護で奇跡的に生き延びた彼女が送るには、あまりにも寂しい最期じゃない?それとも話を聞いて最期を看取る黒人青年が希望の光だったのか…。ニューヨークとマケドニアの二層構造にした理由をぜひ聞いてみたい。
レミー

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