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コレクターのHKのレビュー・感想・評価

コレクター(1965年製作の映画)
3.8
『ローマの休日』『我が生涯の最良の年』などのウィリアムワイラー監督によるサスペンス映画。キャストはテレンス・スタンプ、サマンサ・エッガーなどなど

会社で同僚や上司に虐められる陰気な男がいた。彼は蝶の標本採集を趣味にしていたのだが、彼は宝くじで大金を手に入れると片田舎にある古い屋敷を購入した。そして彼はクロロフォルムを用いて一人の女性を誘拐し、屋敷の一室に幽閉するのであった。

ウィリアム・ワイラー監督によるサイコサスペンス映画。典型的で横道な拉致監禁もの映画である。誘拐犯を演じるのはテレンス・スタンプ。非情に落ち着いて端正な顔立ちながら陰気で覇気のない男を演じている。

序盤の誘拐するまでのシークエンスは車で尾行する際に効果的にサイドミラーなどを利用して観客の不安感を煽るなど絶妙な演出を行っていた。クロロフォルムで眠らせるというのは後年のバニシング消失にもインスピレーションを与えているようでもある。

サマンサ・エッガー演じる女子大生との対比的な性格がとても良かった。彼女の方はとにかくすぐにでも脱出できるならという理由で段々と彼の言うことに従うようになるが、それが却って彼を逆なですることになってしまうという事態に。

ストックホルム症候群かのように段々と彼に対する抵抗意識がなくなっていくがそれも全てここから脱出するために画策したものであり、最後の最後で絶望的な展開になるのもそういうのが大好きな自分としてはかなりはまることのできる作品でした。

そして何とも言えないラストというのも頷ける。こうして犯行は繰り返されるのである。エンドクレジットで彼の狂気の沙汰を表すかのように極彩色の蝶の紋様を見せてきたのでそこもとても良かったですね。

劇中では見つかるのか見つからないのかという王道のサスペンス展開以外にも、二人の間でのディスコミュニケーションというのもよく出していた。そこにはある種のオタクに対する偏見とかに対する怒りの声のようにも感じられる。

サリンジャーやピカソみたいに、文芸だけが評価されて、昆虫採集をやる人間が変態と思われるような世界の一体どこが正しいのだろうか。そういう正論めいたことをたまに言ってしまう主人公がすごい面白かったですね。

もしかしたら、とりあえず自分を受容してくれるような存在というのを主人公は求めていただけなのかもしれないという何とも憎めない誘拐犯であった。誘拐犯でありながら表面では紳士的でいつもスーツを着ているというのも今ではよくあるがその元祖のようにも感じられる。

もしかしたら彼も表面的な物しか愛せないのだからこそ、彼女にだけは本心からの愛情というものを求めていたのかもしれない。そういう意味で非常に魅力的な犯人であった。

しかしあんな一室に女性を閉じ込めてトイレとかどうしているんでしょうね。あんな地下室に設備されているんでしょうかね。自分こういう監禁ものとか籠城ものを見る際には基本的にうんことかどうしてるのか気になっちゃうんですがね。

いずれにしても見れて良かったと思います。ウィリアムワイラー監督作品、王道の路線で傑作も多いのですがそういう作品をもっと見てみたいですね。
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