1960年代ロシア・ニューウエーブ期の伝説的青春映画。監督は後に「不思議惑星キン・ザ・ザ」(1986)を手掛けるゲオルギー・ダネリア。撮影は「惑星ソラリス」(1972)などタルコフスキー監督と連作するワジーム・ユーソフで、本作でカンヌ映画祭撮影賞を受賞。主演は後に「12人の怒れる男」(2007)など監督として活躍するニキータ・ミハルコフ(当時19歳)。
1963年、夏のモスクワ。シベリアから訪れた作家志望の青年ワロージャは、工事作業員の青年コーリャ(ニキータ・ミハルコフ)とひょんなことから仲良くなる。二人はその日の夕方に結婚式を挙げるコーリャの親友サーシャと合流しデパートへ礼服とプレゼントを買いに向かう。レコード売り場でワロージャは店員の娘アリョーナに一目惚れし。。。
楽しく爽やかで詩情もある青春映画の傑作だった。現在もロシアの若者たちに歌い継がれているという主題曲「私はモスクワを歩く」が始終映画のムードを楽し気に染め上げ、ラストの主人公による歌唱で一気に本作をまとめ上げていた。※Filmarks記載のDVDジャケットは本作と真逆なイメージ。
“雪解け期”のモスクワの街を舞台に平凡な若者たちの一日をささやかな笑いと共に瑞々しく描いている。大きな出来事は起こらないが、小さな魅力的な場面を積み重ねて青春期の楽しさを炙り出していた。圧巻だったのは中盤に挿入される雨と娘のシーン。本国での本作ポスターのモチーフにもなっているのだが、本編との物語的な脈絡はなく娘が登場するのもこの場面だけ。しかし、夕立の公演を傘をささずに歩く娘の姿は“雪解け期”のロシアの時代精神を象徴していて本作のテーマを見事に象徴していた。大胆な手法に驚くとともに強く印象に残る名場面だった。ちなみに青春と雨のカタルシスは「放課後」(1973)や「台風クラブ」(1985)を想起。
この“雨と娘”のシーンと終盤のロマンティックな屋外ダンスシークエンス、そしてラストの地下鉄構内での鮮やかなワンカメショーの三場面が本作を傑作たらしめている。個人的には同時代のヌーヴェルヴァーグ青春映画よりも好みだった。
※「私は20歳」(1965)と同じく赤の広場でのロケ。バジル大聖堂の観光説明シーンがあった。
※脚本は本作と並べて語られる1960年代“モスクワ映画”「私は20歳」のゲンナディ・シュパリコフ。タルコフスキー監督の全ロシア映画大学時代からの親友として知られるが、アルコールと鬱症により1974年に首つり自殺した(享年37歳)。