シズヲ

ジャズ大名のシズヲのレビュー・感想・評価

ジャズ大名(1986年製作の映画)
3.3
「いぇーい!!」

南北戦争によって自由の身になった四人の黒人解放奴隷たち。道中でジャズを編み出しながら先祖の故郷アフリカへと帰ろうとした彼らだったが、訳あって幕末の日本へと漂着してしまう……。筒井康隆原作の中編小説を岡本喜八が映画化した作品。「ええじゃないか!ええじゃないか!」に象徴される幕末の混沌にジャズというカルチャーまで食い込ませるアイデアがやけに印象深い。タモリやミッキー・カーチスのようなゲストが要所要所で出てくるので微笑ましい。

演劇めいた幕開けや何処かすっとぼけたテロップ、冒頭から暫く続く黒人奴隷パートなどの要素が時代劇(?)としての異質性を端的に描く。「オラ達は〜」「〜んだ」という田舎言葉で吹き替えられる黒人奴隷達が妙に味わい深い。道中における即興の演奏がジャズへと転じていく描写で後々の展開への期待感が込み上げてくる。その後ものらりくらりとした藩主=古谷一行を中心に、何処かシュールな掛け合いがゆるりと繰り広げられるのでフフッてなる。夕焼けらしきどぎつい赤色の照明や地続きの通路となっている屋内のセットなど、何処となく舞台劇めいたシチュエーションも印象的。

“戊辰戦争という時代の節目そっちのけで藩主達がカオスなセッションに傾倒する”という終盤の展開が本作の肝で、それまでの流れは引きのようなものである。とはいえ途中までの流れに映画自体を引っ張るほどの熱量がある感じではないし、終盤手前まではジャズや黒人などの要素が時代劇とそこまで化学反応を起こす感じでもない。前述のオチに持っていくため、戊辰戦争手前というシチュエーションを強調することに尺を使っている印象。シュールな掛け合いもどちらかといえばクスリと笑う程度のノリで、道中の内容を引っ張るにはちょっと物足りない。

そんなこんな言いつつもラストのジャズセッションは何だかんだ壮観で、時代の節目を無視して賑やかな演奏を繰り広げる様子はいっそ清々しい。サックスやトロンボーンなどに混じって、和太鼓や三味線といった和楽器の旋律が入り乱れるという奇想天外な文化混合ぶり。良くも悪くも後に残るものは愉快なジャズだけ。見終わったあとに後味や余韻があるかどうかは正直定かではないけど、「まぁ楽しそうだったから良いのかな」という気持ちにさせられる。
シズヲ

シズヲ