ペコリンゴ

私は死にたくないのペコリンゴのレビュー・感想・評価

私は死にたくない(1958年製作の映画)
4.1
記録。
偽造された証拠と悪意に満ちた偏向報道による印象操作。彼女は司法に殺された。

実在した元死刑囚バーバラ・グレアム。
女優と見紛うほどの美貌と若さを誇る彼女が、殺人事件の容疑者として逮捕され、ガス室での死刑執行により僅か31歳の若さで逝去するまでの生涯を描く社会派ドラマ。

容疑者は一貫して無罪を主張、犯行を裏付ける物証もないままに仕立て上げられた有罪。本作は冤罪の見地から、司法制度の歪や行き過ぎたメディアがもたらす悪影響を痛烈に批判する作品だ。

モノクロの映像に、全編に渡って流れるモダン・ジャズの劇伴。
現代の目線では粋で洒落た質感に映るかもしれないが、途轍もない陰惨さと強烈なメッセージに満ちている。
軽快なジャズのビートはそれらをマイルドに包み込むオブラート、或いはスイカに振る塩のように際立たせるスパイスだ。

バーバラを演じたスーザン・ヘイワードの迫真というより他ない名演は、公開から半世紀以上経った今も色褪せることはなく、波乱の生涯を生きた女性を、凛とした力強さと凄みをもって完璧に表現。
恐らく本人が実際に感じたであろう恐怖や怒り、僅かながらの希望と、それが何度も裏切られる絶望が、ありありと伝わってきて胸が苦しくなる。これはアカデミー主演女優賞も納得。

恐るべき事実に基づきつつ、分かりやすい映画的娯楽性を共存させた社会派ドラマの傑作。司法が正しくある事、新たな冤罪による死刑執行が生まれない事を祈ってやまない。