Inagaquilala

野ゆき山ゆき海べゆきのInagaquilalaのレビュー・感想・評価

野ゆき山ゆき海べゆき(1986年製作の映画)
4.1
「ワンダーランドの映画作家 大林宣彦映画祭2017」で観賞。大林監督にとっては、「転校生」(1982年)、「時をかける少女」(1983年)、「さびしんぼう」(1985年)の尾道三部作の後の、1986年にATGで撮った作品で、前3作より色濃く作家性を打ち出した作品でもある。

ご多聞に漏れず、この作品でもヒロインに鷲尾いさ子を抜擢して、彼女の印象的な演技を引き出し、佐藤春夫の小説「わんぱく時代」を下敷きに、第二次大戦下での結ばれぬ悲恋を描いている。

それにしても、大林宣彦監督の女優づかいはまことに上手い。「転校生」の小林聡美、「時をかける少女」の原田知世、「さびしんぼう」の富田靖子と、この頃の大林監督はフレッシュな女優を次から次へと起用し、作品的にもかなりの成功を納めている。この作品でも身長的にもかなり目立つ鷲尾いさ子を、物語のヒロインとして中心に置き、巧みに展開して、見事なボーイフッド作品をつくりあげている。

自分としては、岡本喜八監督が同じくATGで撮った第二次世界大戦を背景にした作品「肉弾」(1968年)に匹敵する傑作だと考えている。まことに劇的なヒロインと恋人の結末で締めくくられるが、自分としては、あれはあれでよかったのではないかとも思える。なぜなら平常時の彼女と彼の姿が容易には想像できないからだ。鷲尾いさ子が演じるヒロインお昌ちゃんの姿は、作品を観終わった後でも瞼の裏に残っている。お昌ちゃんの、士官学校を目指しているやんちゃな異母弟の役名が「大杉栄」というのは、はたして脚本のオリジナルなのであろうか。
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