風に立つライオン

ヒートの風に立つライオンのネタバレレビュー・内容・結末

ヒート(1995年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

  1995年制作、マイケル・マン監督によるハードボイルド・アクション映画である。
 
 なんてったってパチーノの熱い追っかけとデ・ニーロのニヒル&クール振りがたまらない。
 かと言って二人が顔を会わすのは僅かで途中の高速道路沿いのカフェと最後の空港での決闘シーンぐらいである。

 デ・ニーロのキャラはプロのギャング団のボスとして冷静沈着で的確な判断をする絵に描いたようなニヒリストとして登場する。
 片やパチーノは子連れ妻と再婚した熱いやり手刑事で、ややもすると家庭を顧みずに仕事に没頭するタイプで既に家庭での軋轢は修復不能の状態にあった。

 ロバート・デ・ニーロことニールのストイック振りは彼の自宅に端的に顕在化される。
 そこには全く生活感がないのだ。
 何処ぞの海沿いにあるオフホワイトの色調で統一されたモダンな建物、そのガラス張りのリビングには家具らしきものが無い。
 唯一ガラスのテーブルがあるくらいで、ウィスキーの入ったクリスタルグラスとH&Kの自動小銃が「カシャ」っと置かれたりする。
 そして彼らが「ヤマ」と呼ぶ仕事に冷静沈着に全霊を掛け対処するのみである。
 彼の信条は、

「やばいと感じたらジャスト30秒で高跳びしろ。その邪魔になるものには関わるな」

 対するアル・パチーノことヴィンセントは刑事家業一筋で手強いプロ達を追い詰め召し挙げることに生き甲斐を見出すタイプで、必然、家庭構築力に欠けることになる。
 バツ2で3人目の妻の連れ子の少女をナタリー・ポートマンが演じているが、思春期の繊細な乙女心を漂わせて秀逸である。
 
 そしてニール達の前に大きな「ヤマ」が情報として現れる。
 これを最後に足を洗うとの覚悟のもと、この「ヤマ」を踏むことを決意する。

 ヴィンセント達は常日頃、ワルの情報提供屋から情報を入手し、事前にこの「ヤマ」について察知することが多い。
 この手の闇情報の入手パターンは「ブリット」、「フレンチ・コネクション」などアメリカ刑事ものではお馴染みである。

 だが、今度の大きな「ヤマ」はかつての仲間で勝手なマネばかりする為ニールがクビにしたウェイングローというワルによる恨み節で情報がリークされていた。
 
 ヴィンセント達のニール一味への密着追跡が始まる。
 この過程でヴィンセントとニールが同一画面に登場する高速道路沿いのカフェに二人で立ち寄るシークエンスがある。

 このカフェの壁には二人が向かい合っているショットが今でも額に入って飾られているそうだ。

 この時の会話は実に含蓄と大人の風味に満ち、プロ同士の譲れぬ意地と男の美学が滲み出ている。
 ゆったりとしたデ・ニーロの得意な揺蕩うような間取りで実に6分強話される。
 記憶に間違いが無ければ彼らはゴッド・ファーザーpartⅡ以来の共演となるはずだ。
 ただし、共演と言ってもゴッド・ファーザーでは同じ画面に登場していない。
 つまりこのシークエンスが実質初共演と言っていい。

ヴィンセント「ファルサム刑務所
  で7年、その後マクニール刑
  務所にいたな。あそこは厳し
  かったか?」
ニール 「あんたは刑罰学者
  か?」
ヴィンセント「戻りたいのか?」
ニール 「捕まるのはドジだ
  からさ。俺がその辺の酒屋強
  盗に見えるか?」
ヴィンセント「いいや。だがもう
  ヤマを踏むな」
ニール 「俺はヤマを踏むプ
  ロ。あんたはそれを阻止する
  プロ」
ヴィンセント「普通に暮らす気は
  ないのか?」
ニール 「庭でバーベキュ
  ー、テレビで野球か?あんた
  もそんな暮らしを?」
ヴィンセント 「俺の暮らしはハ
  チャメチャだ。義理の娘はロ
  クデナシの父親を持って手が
  付けられない、3人目の妻と
  もまた破局寸前。それもこれ
  もお前のような奴を毎日追い
  かけ回す毎日だからだ」
ニール 「ある奴がこう言
  った。ジャスト30秒で高飛び   
  出来る様に面倒な関わりを持
  つな。そういう男を捕まえよ
  うって奴が結婚するのが間違
  っている」
ヴィンセント 「興味深い意見
  だ。お前は修道僧か?」
ニール 「女はいるがやば
  くなりゃ別れも言わず捨て  
  る。それが自分の掟だ」
ヴィンセント 「寂しいもんだ 
  な」
ニール 「それに耐えられ
  なきゃ別の生き方を探すこと
  だ」
ヴィンセント 「探す気もない」
ニール 「俺もだ」

ヴィンセント 「俺はこんな夢を
  見る。俺が殺した犯人達が晩
  餐のテーブルについて穴の空
  いた頭をして俺の顔を全員見
  つめている」
ニール 「何か話すの
  か?」
ヴィンセント 「無言だ」

ニール 「俺のは溺れる夢
  だ。眠ったまま死にそうで起
  きて息をする」
ヴィンセント 「何か意味がある
  のか?」
ニール 「まだ、時間があ
  るってことだ」

ヴィンセント 「ここにいる俺た 
  ちはしたいことをしている普
  通の男と変わりはない。俺は
  お前を務所に送りたくない。
  でもお前がヤマを踏むのなら
  俺はお前を間違いなく殺す」

ニール 「俺の夢にはまだ
  続きがある。俺が追い詰めら 
  れ、あんたと対決したら何が
  どうあろうと邪魔は許さん。 
  こうして話はしたが、俺は一
  瞬の躊躇もなくあんたを殺
  る」

ヴィンセント 「そうなるかも   
  な」

ニール 「或いはもう二度
  と会わないかもな」


 この二人は要は紙一重で裏表なのである。
 置かれた場所が違うだけでストイックな仕事一途野郎なのである。

 この映画の白眉は何と言ってもこの後に起こる街中での12分間に及ぶ銃撃戦であろう。
 シークエンスが始まるとギターのミュートパッシングが間断なく流れ始め、緊迫感が増嵩していく。
 ニール他クリス(バル・キルマー)、マイケル(トム・サイズモア)も高性能機関銃で乱射する。
 1分間に700発の発射能力のある軍用のカービン・ライフル銃での乱射シーンは本物の銃の音を使用しただけあってダイナミズムと迫力、緊迫感に満ちている。
 パトカーへの着弾は本物を使用して撃ち込んでおり、バイオレンス感が半端ない。
 12分間間断無く続く銃撃戦シーンに喉がカラカラになる。
 マイケルはやられるも、ニールは負傷したクリスを連れかろうじて脱出する。

 だがニールは自分の信条に反し、バーで出会った女性イーディ(エイミー・ブレネマン)を愛してしまい、それが彼を破滅させることになっていく。

 愛は計算高くなく、信条を打ち砕く。

 また、クリスは妻のシャーリーン(アシュレイ・ジャッド)を連れにくるが、そこには警官が隠れて待っていた。 
 テラスに出ていたシャーリーンがクリスだけにわかるように手のひらを横に振る。
 クリスは全てを悟って黙ってそこから立ち去るのであった。
 女性陣も皆いい味出している。

 最後の空港でのニールとヴィンセントの対決は「ブリット」が匂う。
 夜の空港の管制ライトの交錯が緊迫感を盛り上げる。そして…

 いつ観ても感じるが、デ・ニーロとパチーノの役所を入れ替えても良かったのではないかと。是非そのバージョンで観てみたい。