YasujiOshiba

ヒートのYasujiOshibaのレビュー・感想・評価

ヒート(1995年製作の映画)
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良い映画はオープニングがよい。ハッとさせるような映像と音があれば、ぼくらはおもわず姿勢を正し、脳を覚醒させる。

『ヒート』のオープニングは模範的だ。

思い出しみよう。まずは陸橋でのカットバック。光と闇、霧と線路の遠近法から、SF的な空中のプラットフォームの浮遊感へと跳躍。

カメラにとらえられた男は、まるで幽霊が漂うように下りのエスカレーターで地上へ。アスファルトの俯瞰。白い矢印を横切る男。次の瞬間、地面に踏み込まれた靴を捉えるカメラは、遠ざかるその歩みを追いながら、真っ白なミケランジェロのピエタ像を浮き上がらせる。病院なのだ。

建物の裏扉が開くと救急病棟だ。ベッド、モニター、点滴、動き回る医師や看護師。患者の家族らしき人々。男は、まるで自分の仕事場のように、その間をすり抜けて入り口へ。数台の救急車。ひとつのドアを開けて忍び込む男。エンジンがかかる。

それにしても、地下鉄でやって来た男が、なぜ救急車で立ち去るのか。その「なぜ」が起動させるのが『ヒート』という物語。カメラは、リアルな場所、リアルな人間、リアルな列車や、そしてなによりもリアルな道具の数々をとらえながら、なにかシュールな世界を立ち上げてゆく。そのシュールな世界にも人の息吹があり、気配があり、そして体温(ヒート)がある。

Wikipedia en. によると、どうやら映画の背後にも実在の人物の《ヒート》があるらしい。

ひとりは、『マイアミ・バイス』のエイピソードを執筆したことでも知られる実在の刑事チャック・アダムソン Chuck Adamson (1936 – 2008) 。アル・パチーノが演じる刑事はこの人物がベースになる。その彼が1960年代に担当した銀行強盗の犯人がニール・マッコーリーNeil McCauley 。デ・ニーロが演じるニールの背後には、この実在の《ヒート》があるわけだ。
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