磔刑

それいけ!アンパンマン ゆうれい船をやっつけろ!!の磔刑のレビュー・感想・評価

3.2
「繭」

話の構成はテレビ版の延長線的で子供には見易いと思う。アンパンマンとばいきんまんの対立構造重視かつ、スーパーヴィラン化したロールパンナとの戦闘シーンに重きを置いた内容は完全にアメコミ映画そのものである。

ロールパンナちゃん推しとしては非常に楽しめた。ロールパンナが心を取り戻すまでのアンパンマンの男気、メロンパンナの献身的な行動には思わず涙腺が緩んでしまう。
今作のばいきんまんは割と有能かつ、鬼畜仕様でかなり良いところまでアンパンマン一行を追い詰めるので中々ハラハラさせられる。

ばいきんまんの武器はだいたい兵器なのだが(今回は大砲)、そのバイオレンスな要素を完全に排除しながらも(今回だと大砲から射出されるのが砲弾ではなく幽霊)、ばいきんまんのアイデンティティの象徴としての魅力を損ねず演出するのには毎回「スゲー」って感嘆させられる。てゆうかばいきんまんのジャムおじさんに対する呼称って“ジャム”なのね。

アンパンマン映画特有のツッコミ要素は多め。
弱ってる馬になんの躊躇もなくあんぱんを食べさせようとするアンパンマン(いや、それがアンパンマンの良いところなんだけどさ、でも馬ってパン食わんだろ)。ドクターヒヤリのメロンパンナに対する迫り方が完全に薄い本仕様。幽霊製造の原材料がナメクジの超理論。
ラスト、マリンの仲間たちが迎えに来る様子は完全に『風の谷のナウシカ』の王蟲。これはツッコミ所と言うよりも意図的なオマージュだろう。

妹よりも後に生まれたロールパンナは“理想の姉”を具象化した存在だ。しかし、アンパンマンが“理想にして完璧な大人”に対してロールパンナは“姉”である性質上、“理想”になれても“完璧”にはなれないジレンマを抱えており、それはロールパンナの2つの心に象徴されている。
闇堕ちするロールパンナの姿はいわゆる中二病そのもので、子供が大人になるまでには男女問わず必ず一度は通る道だ。ロールパンナの善と悪の葛藤は完璧な大人であるアンパンマンの存在と比べると少々子供じみて見える。だが、ロールパンナを包む繭の中で揺れ動く2つの心は少女から大人へと完全変態する過程のようであり、理想と儚さが共存する羽化直前の不完全さ、脆さにこそメロンパンナ(幼児)が憧れる要因があるのだろう。

メロンパンナ、ロールパンナの姉妹愛に重きを置いており、どちらか或いは両キャラクターが好きな人なら観て損の無い内容に仕上がっている。演出、ストーリーにアクがない分物足りなさはあるが、その分初心者向けの内容と言える。
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