LalaーMukuーMerry

オリーブの林をぬけてのLalaーMukuーMerryのレビュー・感想・評価

オリーブの林をぬけて(1994年製作の映画)
4.5
ジグザグ道3部作、最終章。震災で壊滅的状況になったコケルの町をロケ地として映画「オリーブの林をぬけて」の撮影現場を描く舞台裏作品。ほとんどの役が現地の素人、だから現地の女子高生のオーディションのシーンから始まる。といってもみんなベールを被っている。お顔だけで判断して候補を絞っていく監督。撮影が始まると、素人さんならではのNGの連続、テイクいくつまで行くんや?・・・
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僕の名はホセイン、レンガ職人の見習い。震災の後、仕事がものすごく増えてとても体が持たない。もう工事の仕事は嫌だと思っていたところへ、映画俳優の代役の話が運よく回ってきた。映画俳優といっても男では僕が最年少だから、映画スタッフにお茶をだすのも僕の役だ。
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いよいよ出番のシーンの撮影。スタート! 覚えた台詞を言ったのに妻役の相手の女性が言葉を返してこない・・・???
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相手の女性はタヘル、なんと地震の前の日、僕がプロポーズした女の子だった!
詳しいいきさつは書かないが、彼女の両親は僕を認めてくれなかった。僕が「字が読めない、家を持たない」という理由で大事な娘を嫁がせるわけにはいかないと言われた。
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そして地震・・・
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彼女の両親は亡くなり、今は祖母と二人暮らしだ。その祖母も僕を認めてくれない。けれど僕は知っている、彼女は僕に気があるに違ないことを。イランの娘は親の言うことに逆らえないから黙っているだけだ。
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撮影の合間の時間、彼女は腰かけて本を読んでいた。僕は彼女に近づき、もう一度プロポーズした。けれど彼女は、僕を無視して静かにただ本を読んでいた(ふりをしていた?)。僕は彼女に伝えた、話せないならそれでもいい。でももし僕を受け入れてくれるならその合図として、撮影本番の時に本のページをめくってくれ・・・
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映画撮影の裏側を見せながら、プロポーズという男女間の一大イベントが織り込まれた、途中から急に目が離せなくなる作品でした。
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そして実に味のある最後のロングカットだった。(このラストだけで名作認定です!)引いたカメラでとらえた遠くの小さな二人の様子が、この二人どうなるのだろうという野次馬目線でのめり込んでいた私には、なんとも微笑ましく感じられた(実を言うとはっきりしないのだけれど、各人のこころに委ねられるのです)。
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オリーブの林をぬけて広い牧草地を歩いて遠ざかっていく彼女。彼女を追って丘を降りていき、懸命に走ってやっと追いつく彼。必死に訴えているであろう彼。でもそのまま前を見たまま無視して歩き続ける彼女。その彼女が急に立ち止まって振り返る静止の一瞬。音楽の調子が変わる。そのまま歩き去る彼女。元気いっぱい牧草地を横切って戻って来ながら、ズッコケる彼。なんとも幸福な感じ・・・
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学歴とか年収とかで品定めをする前に、自分のためにこういう誠実さと必死さを見せる青年、そういう男を相手に選ぶのだよ。きっと大切にされるから。