菩薩

チェンジリングの菩薩のレビュー・感想・評価

チェンジリング(2008年製作の映画)
4.9
事実は時に小説や映画より奇であり同時にクソであると言う事を再認識するに十二分過ぎる超傑作、この作品の胸糞指数はもはや神の領域と言っても過言では無い。根本的な人間性を欠いた人間が「職務」に忠実である事がどれほど危険な事か、歪みきった社会の中で行使される「正義」がどれほど悍ましいものであるか、弱い人間が自らを強く見せる為に自分より弱い者に対して振りかざす「暴力」がどれだけ醜いものかをこの作品は真正面から捉え、受け止め、表現する事に成功している。この題材を作品にしようと考えたイーストウッドもさる事ながら、辛過ぎる役所を見事に演じきったアンジェリーナ・ジョリーに対しても畏敬の念が絶えない。組織は必ずと言っていいほどガン化する、ガン化した組織は放っておけば死に至るだけだ、社会は必ずと言って腐敗する、腐敗した社会を放置すれば我々が殺されるだけだ。ならばどうすれば良いのか、クソでしか無い現実を血と汗と涙で、怒りと悲しみと憎しみを超えた先にある人間本来の「責任」で覆して来た過去に学ぶしか無かろう。そうして未来に微かな希望を見出すしか無いのだろうが、同時に希望そのものが「監獄」となる場合すらある。どうしようもないと思うが、或る夜に始まり、そして或る夜に終わった出来事の先で、あの「ジェリコの壁」は確かに崩壊した、そんな奇跡を、この映画の中に見出すのである。
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