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第9地区のyumeayuのレビュー・感想・評価

第9地区(2009年製作の映画)
4.0
"猫缶"

南アフリカが舞台ということで、明らかにアパルトヘイトを意識している今作だが、その差別の対象を人間ではなく、エイリアンに置き換えているところが独創的。

しかし、このエイリアンは見た目こそ"エビ"に似ていて気持ち悪いが性格は温厚で、よくあるSF映画のような野蛮な侵略者ではない。
彼らの目的は定かではないが、母船が故障したせいで立ち往生し、南アフリカで難民となってしまった。その間、政府によって隔離政策がとられ、彼らは仕方なくスラム街で暮らしている。

物語は手持ちカメラによるドキュメンタリーチックな雰囲気で始まる。どうやら、主人公ヴィカスの身に"何か"が起こったのは間違いないようだ。
ヴィカスは巨大企業MNUの職員であり、エビ達の移住計画の責任者でもある。お役所仕事的にエビ達からサインをもらい移住を進めていくのだが、ある家を訪れたときに謎の液体を浴びたことで体に異変が起こり始める…。

監督のニール・ブロンカンプは物語の舞台となっている南アフリカ出身である。主演のシャールト・コプリーも彼の高校の同級生なんだそう。そんな彼らが自国のアパルトヘイトにヒントを得て制作したのが今作である。
難民となったエイリアンが人間達と共存しているという見たことのない世界観。そこに社会風刺を描き、問題提起をしながらも娯楽性も兼ね揃えているというのはすごい。しかもデビュー作だなんて。

物語終盤。立場が逆転し、追われる身となったヴィカスはエビ達を見て何を思ったのだろうか…。
いったいエビ達は人間に何をしたというのだろう。ただそこに存在して、ただ生きようとしているだけなのに…。いったい誰がそれを否定できるのか。
次第にエビ側に感情移入してしまい、人間がいかに愚かでエゴイスティックな生き物なんだろうと、悲しくなってしまった。
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