あーや

夢を見ましょうのあーやのネタバレレビュー・内容・結末

夢を見ましょう(1936年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

先日BOOKOFFにて破格で手に入れたサーシャ·ギトリのBluRay BOX(初回限定盤)。収録されているのは年代順に「夢を見ましょう Faisons un rêve(1936)」「デジレ Désiré (1937)」「カドリーユ Quadrille(1938)」の3本。全てギトリ自身が監督&主演の作品で当時の妻であるジャクリーヌ·ドゥリュバックが相手役です。3本一気に年代順で観ました。映画に目覚めた10年前からフランス映画を好んで観てきた私ですが、正直こんなに楽しいフランス映画はかつて観たことがありません。そのため大興奮でした。いつもに増して長文です。あまりにも長文になってしまったので、取り急ぎ1本目のみにします。
「夢を見ましょう」
原題とタイトルとの差はありません。ただ、タイトルからしてロマンチックなラブロマンスなのかなーと思っていた私。甘い。甘すぎる。浅はかな思い込みでした。私にとって本作が初めてのギトリ体験だったので、ギトリの喋りにただ驚いて唖然としたまま80分が嵐のように過ぎ去り、鮮やかに晴れ晴れとしたまま終わっていました。
まず、オープニングからなんともハッピーなオーケストラ。これだけでも充分に楽しいのですが、この華やかなオープニングはすぐに脳内から消しさられます。なぜならこの映画は!ほとんど!ほとんど!!ギトリが喋り倒しているからなのです。オーケストラの音色が響く中、ブルジョワ階級であろう男連中と女連中が内輪であまり品のない話をしているのですね。その中にいる1人の美人若妻。彼女はある弁護士(サシャ·ギトリ)に「お見せしたいものがあるので明日の夕方、ご主人と拙宅にいらしてください」と誘われます。翌日、夫とギトリの家に行ってみるとなんと自分たちを誘ってきた弁護士は不在。怒る夫に対して「まぁまぁ。待ちましょう」と宥める妻。実は夫は愛人と逢引&外泊の約束をしていたのですね。それを妻に隠しつつ、あまり悠長に待っていられない理由をペラペラと口から出任せで話し出す。しかしその嘘が何とも稚拙。あまりにも嘘だとわかりやすいので妻もおもしろがって揚げ足を取りながら笑って聞いている。これが全てテンポのいい会話で繰り広げられます。あ、夫の歯切れはあくまでも悪いのですが兎に角会話のテンポがいいんですよ。そして「あわわわわ~~」とド下手な嘘をついている間に夫は時間が無くなり退散。大人しく弁護士の部屋で彼が現れるのを待つ妻。するとようやく弁護士役のギトリが現れます。すっと現れ、いきなり接吻。そしてここからです。彼はここから映画の終わりまでとんでもないスピードで喋り倒すのです!登場時の彼の台詞をざっくり一部紹介します。「お待たせ!実はずっと家にいたんだよ。タバコの煙が喉につかえて苦しくて洗面所から出れなかったんだ。ただ君たち夫婦の話は聞いていたんだよ。この話を信じてくれる?なんで信じるんだ!全て嘘だよ!そんなことどうでもいいんだ。夫婦で言い争っていたようだからなかなか出れなかったよ。それより3週間前に貴方を好きになった。その間どれだけ想いに焦がれていたか。何も言わないで。でもあなたの答えを聞かせて欲しい。いや口で語ってくれるな。まずは目で語ってほしい。ああ、あなたの目を見るのが怖い。どうかはっきり示してくれ。いやまだ示さないでくれ··云々かんぬん·····」と。9割以上省略しましたが、こういう一人喋り芝居を延々としているのです。それに対して妻が言ったセリフは最後にたった一言「Oui, je t'aime」!それ以外はただひたすらギトリがぶっ通しでペチャクチャペチャクチャ喋っているだけ。でもその喋りが何ともコミカル!軽快に弾むボールのようにポンポンポンポンとリズミカルに一人で喋り倒しているのですね。同じくしゃべくり映画監督であるウディ・アレンもこのフランス語の氾濫を目の当たりにしたら間違いなく引いてしまうであろうセリフ量とスピードです。話をしながら相槌すらも自分で「bon bon bon bo bo b..(ボンと言えていない!)」なんて打っています。しかしセリフ量だけではありません。全てのセリフが滑稽なのにコミカルで心地が良く軽快なのです。なんとまぁ良質な冗談の数々!始まって数分でこんなにセリフだけで笑わせてくれたフランス映画がこの世にあるのでしょうか?いや無い(反語)!私の個人的な意見ですが、フランス映画は台詞量の多い映画の方が面白いです。そしてギトリは一にも二にも異常に喋り過ぎです。しかも有り得ないほど早口です。喋らず黙って画面を観ているこっちが息を吐く暇もないほど喋り続けています。つまり···彼の映画は私のツボに見事にハマったのです。私、このおっさん(ギトリ)が大好きです。おっと!好きになったあまり興奮しすぎて脱線していました。ストーリーに戻ります。愛を確認したあと、その日の夜に会おうと再度約束した2人。しかし妻がイタズラ心からギトリの家へ出かけずにギトリを放っておきます。ギトリはワクワクしながら彼女が来るのを待つ余り、ひたすら一人で延々と喋り続けています。しかし、どれだけ彼女の家から自分の家までの道程をシュミレーションしてもあまりに彼女が来ないので(と言っても5分くらいの遅刻。既に夕方自分が不在だったことは棚に上げている)、我慢出来なくなって彼女の家へ電話をします。そこから電話てまーた引き続きしゃべくり倒している。その内容と言い身振り手振りといい、あまりに多弁なため腹を抱えて笑っていました。彼女が電話口に出なくなったことに気付いたら切実にひたすら話を聞いていてくれと長々と懇願を繰り返しているのですから。1人で懇願し続けている間に彼女がギトリの家に着いて彼をキュートに驚かせました。驚きつつ興奮して歓喜に踊るギトリ。そのままふたりは愛し合う。翌朝。夫の不在のうちに帰るはずだった妻ですが、うっかり寝過ごしてしまい焦っている。帰りが遅くなったことの言い訳をあれこれ考えて焦燥している妻に対し、幸福感に満たされたギトリは彼女に朝ごはんを食べようと誘ったり昨日の思い出をまた1人で長々と悠々と語り倒したりしている。ギトリ1人が物凄く幸せそう。そんな中、なんとびっくり!彼女の夫がギトリの家にやってきたのです。そそくさと妻をバスルームに隠し、夫を家に迎え入れる。事情を聞いたところ夫も愛人との外泊をしてしまい、どのように妻に言い訳をするか悩んだ結果ギトリの家に相談しに来たそうです。概要を聞いたギトリは落ち着いて時間稼ぎのような解決策を提案します。多少怪しまれつつも最終的には納得させ、感謝されながら夫を遠方へ向かう汽車へ乗せることに成功しました。そしてバスルームに隠れていたドリュバックを再び呼び戻し「彼は一旦遠くへ向かったからあと2日間は一緒に過ごせるよ♡」と気分良くダンスを踊る2人なのでした。
お気楽不倫コメディでした。決して夫婦2人のダブル不倫がバレて泥沼になることなどなく、不倫カップルが幸せにダンスを踊るシーンで終わるとは。ギトリのセリフが生み出す軽快なテンポに乗せられ、ひたすら笑っていた私。観たあと、1人で映画を観ながらこんなに笑ったのは久しぶりだったので暫く眠りにつけませんでした。サーシャ·ギトリ。ヌーヴェル・ヴァーグの生みの親と呼ばれている割に日本では彼の作品を観る機会が無いことはとても勿体無いです。フレンチコメディと言うとジャック·タチが有名なのですが、個人的にジャックタチの作品で笑ったことがないので好きではない。「フランス映画で笑いたい時はギトリ映画でしょ!」が常識になるくらい日本国内でも知名度が高くなってほしい映画人です。
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