Azuという名のブシェミ夫人

チョコレートのAzuという名のブシェミ夫人のレビュー・感想・評価

チョコレート(2001年製作の映画)
4.3
ビリー・ボブ・ソーントンにハマったキッカケの映画。
祖父、父親、息子と3代に渡って刑務官を務めてきた一家。
祖父は強烈な白人至上主義で、黒人が自分の庭を通ることさえ我慢ならない。
その息子であるハンク(ビリー)はそんな父親に育てられた為、職業どころか生き方までも継承し、息子ソニー(ヒース)にもそれを強要してきた。
なのにソニーは黒人と仲良くしたがって反発する。

軟弱な奴だ。なんて忌々しい。
やっぱり母親似だな。

でも、ハンクが息子を疎んじているように思えたのは、きっと息子の姿に自分自身が懸命に抑えてきた葛藤を見たからだと思う。
自分の殻を破りたくても、あの父親の手前どうすることも叶わなかった自分の人生。
それを息子に投影させてしまったんだろう。
時折疑問に感じる事があっても、自分の生き方を変えることは年を取れば取るほど難しくなったはず。
その壁が息子の手による出来事で崩壊。
そして、彼が死刑執行に携わった男の妻、黒人女性のレティシア(ハル)に出会う事で彼の人生は大きく形を変えていく。

ビリーとハルの抑えた静かな演技が、却って心の葛藤を感じさせて凄く良い。
自分の心情を吐露するシーンはとても少ない。
観客が彼らの想いに考えを巡らせる事が出来る。
鏡や人物画が象徴的に使われてたのは、その人物の本質を映し出すものだからかな。
とても重たい話だけど、その重~いボールをいきなり投げつけてくるわけじゃなく、そっと心に置いていく。
押しつけがましくない作品は好きだ。

二人の激しいSEXシーンが話題になったけど、エロさではなくて、お互いに欠けた部分を必死に探し、それをなんとか埋め合おうとする様なヒリヒリした痛みを感じる。
始めは“愛”ではなかったのだろう。
喪失、絶望、虚無を埋める温もりが欲しかっただけかもしれない。
でも、レティシアが最後に見せた表情は私には一つの“愛”に見えた。
彼女がアイスをちゃんと口に含んだから。
葛藤の先に、希望が見えた気がした。
ハルの表情が素晴らしい。

ヒース・レジャー。
登場シーンは僅かながら、彼の演技に最大の賛辞を。
ほんとに惜しい人を亡くしましたね。