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「A」のRのレビュー・感想・評価

「A」(1998年製作の映画)
4.7
オウム真理教の広報担当だった荒木浩の、地下鉄サリン事件以後の様子を追ったドキュメンタリーってことで、めちゃめちゃ興味あって、やっと見たって感じっす。森監督の対象に対する視点が、客観的だの主観的すぎるだのという話もあるけど、それがどうであれ、ある真実の一側面、つまりひとつの真実が、描かれているのは確かなので、純粋に見て思ったことを書いておこうと思います。まず全編ずっと感じてたのは、何て悲しい話だろうということ。いろんな意味でそう感じた。まず、オウム真理教の信者さんたち、みんな、基本、めちゃめちゃ真面目で、人生に対して真剣なんです。だから、濁悪の世界の様々な矛盾に悩んで悩んで悩みきって、答えが出せなくて…そこに尊師麻原彰晃が現れる。そして、彼に救済を見出し、俗世を棄てて、出家する。そうして真面目に信仰していたら、起こった大事件。それを理解し難いと思いつつも、本作でまざまざとむき出しになるクソのような俗世間より、自分が信じているものの方が確かに正しいと信じてて、事件とは別問題としての信仰心が消えることはない。むしろ、受難によって、信仰が深まってすらいるのではないか。そう見えるんですねー。オウム信者、みんな、ふつーの人なんです。信者じゃなくてもみんなほんとは同じような疑問を持ってるはずやし、けど、問いに対する本質的な答えが出ないから目をそらしてる。彼らはそこに執着があるだけ。で、出会ったのが麻原彰晃だったってだけ。彼らは、尊師が説いた道が正しいと信じ、自分たちの選択においてそれを信仰している。一方、それ以外の人たちはどうか。本作で描かれる一般人はとにかくオウム信者を排除しようとする、自分たちの生きる社会に植えつけられた規範や人生のレールが絶対に正しいものだと盲目的に信じて。この映画を見てると、少なくともがんじがらめで生きてるパンピーよりは、オウム信者のほうが自由で幸せそうに見えるのは、僕だけだろうか。ただ、私個人の主観で意見を述べさせていただきますと、まず、人間は、社会から自分を切り離して存在することは絶対に無理だということ、だから、そこから逃避するのは絶対に間違っている。オウムはどうやら南伝仏教を多少なりとも基にしているようだ。仏教の開祖は、世間を離れて無になってみたり、苛烈な苦行を行ってみたりした結果、そのどちらも間違っていると悟り、六師外道を厳しく批判した。出家は、現実における闘争からの逃避でしかなく、自己のみの救済を目指した、究極のエゴセントリズムだった。だからこそ、小乗仏教という蔑称がついてしまったのだ。もう一点は、やはり、信仰の対象が、どっからどう考えてもおかしいだろ、ということ。みなさん、一般人に比べたらよく考えてるし、頭も良さそうやから、何でもっと別の可能性を探ることなく、オウムに決めてしまったのだろうと思う。でも、この両方ともが、ある意味仕方ないものであることも確か。人間は、確固として信じられるものがなければ、どこまでも疑い深く、弱い存在だ。だから、何かあれば飛びつきたくなるのはしょうがないし、はじめて出会う一見すごそうな人や考えに心うたれるのは当然で、はじめに何に出会うかは運でしかない、そして、ひとたびこれだ!と思ったものを改めるのは、これほどしんどいことはない。こないだ見たゼイリブみたいに笑 で、同じことは、一般の人にも言えるのです。違いは、一般の人が信じているものの対象が、漠然とした世間のルールでありレールであるってことと、もうひとつは、それを自分で疑うことも選択することもなく信じているという点。自分は弱いし考えるのもめんどいから、とりあえずそれを信じてるんです、って意識があるなら分からなくもないけど、それすらない。盲目的にそれを信仰し、驚異的なほど独善的になってしまってる。ほんで、そうすることで、自分たちの自由をも拘束してしまってる、で、面白いことに、そのことにすら気づいていない。こうして見てみると、オウム信者のほうが全然マシに見えてくる。ただ思うのは、オウム信者は信仰を続けるのは自由だが、上層部の犯したとんでもない間違いは、何が何でも絶対に認めるべきだ、ということ。殺生をしてはいけないって自ら言ってるんやから、なぜそこを認めないのか、不思議。理想と現実には断絶がありますよねって言ってるはるけど、そういう矛盾がいやだったからオウム選んだんじゃなかったの?って言いたくなる。ただ、ひとつ言えるのは、荒木さんは、とてもいい人で、純粋な、真面目な人で、自分の信じる道をただひたすらに進みたい人。何か、だんだんいじらしく、かわいく見えてくる。だからこそ、心の底から悲しみを感じる。なぜ、現実から逃げようとするのか。なぜ、いまいる場で知性と力を発揮して戦わなかったのか。まー気持ちわからんでもないけど笑 だからそうなると、やっぱ利他の気持ちってのがどうしても重要な要素になってくるんやろーな。大乗仏教的発想が。そこから逃げて逃げて逃げまくってたはずの世間に、返って激しく直面させられてるのは象徴的と言える。映画としてちょっと思ったのは、1996年の安いカメラだからというのもあるだろうけど、音声が非常に聞き取りにくくて、何言ってんのかわからんとこがかなりあったこと。それ以外は、挑発的で、素直で、とてもいい作品だったとおもう。A2もそのうち見ねばなるまい。他にもいろいろあるけど長なるので終わります。
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