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マイ・プライベート・アイダホのtenのレビュー・感想・評価

4.0
冬の澄み切った空気が作品を常に満たしている。自由であることと引き換えに否応なく手渡される孤独や痛みがその凍えた空気と綺麗に共鳴し、オフビートな緩さを持ちつつも、だれずにラストまで見させる筋があり良かった。延々と田園が続くアイダホの風景と、先の見えない孤独な魂が迷子のように立ちすくむ冒頭が、すべてを現していると言ってもいい。道は一本しかないし、遠くに何が見えるというわけでもない。戻れないなら、ただ進むしかない。皆そうしているはずだろう。ただ、この作品の主人公マイクは、これらの風景を前に失神してしまうのだった。つまり人生という道を進むことができない。
そんな彼が酒や薬など刹那的な快楽で満たされるわけもなく、マイクは母親=愛情を探す旅に出る。自らに肯定をくれる愛の存在は、同時に不可避で不明瞭な将来の肯定を約束してくれるようにも思える。それを指し示すように、空洞の未来を恐れる若者が見るのは、「心配しないで、すべてうまくいくから」という母親のいるいつかの夢だ。
冒頭のようにアイダホの一本道が描かれるラストでは、同じように失神するマイクをスコットが車で拾う。これは人生への不器用な前進の再開であり、今後の2人の連帯を想像させる…と思ったのだがマイクを助けた人物はスコットではない模様。
結局、ジャック・ケルアックの「オン・ザ・ロード」のような、共に青春の火花を散らした友人たちが、置いていく者と置いていかれる者に別れる哀切のラストだったってわけか。
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