シズヲ

ペイルライダーのシズヲのレビュー・感想・評価

ペイルライダー(1985年製作の映画)
4.1
※2019/12/18 再レビュー

悪党に苦しめられる人々のもとに流れ者が現れ、銃によって事態を解決し、また何処かへと去っていく……。80年代半ばの、それもイーストウッド製の西部劇ながらプロットは直球の王道。主人公と開拓民の関係性や母子との愛、更に結末も含めて筋書きは殆ど『シェーン』に近い。しかし冒頭における奇跡を求める祈りや黙示録の引用など、主人公である牧師の“超自然性”が随所で示唆されているのが面白い。神出鬼没の牧師は明らかに『荒野のストレンジャー』の亡霊じみた主人公を思い起こさせるし、過去の自作をも連想することでイメージの構築をスムーズに進めている印象。牧師の名前が一切明かされないのも“名無しの男”めいてる。

前述の通り粗筋はシンプルながらもブルース・サーティースによる陰影や奥行きに溢れた撮影が秀逸で、イーストウッドの確固たる風格も相俟って荘厳な美しさすら感じる。目元にハットの影が掛かる描写や山脈をバックに保安官一味を待ち受ける場面など、要所々々のカットが実に渋い。ダスターコートに身を包んだ悪徳保安官一味の風貌も『ウエスタン』を彷彿とさせて格好良いし、リーダーに『リオ・ブラボー』など往年の西部劇に出演したジョン・ラッセルを配役しているのもニクい。暗色のロングコートを纏った牧師が保安官一味とビジュアル的に対照となるのも良い(銃痕も含めて、こういった結び付きの要素が主人公の“亡霊性”を強調しているのが面白い)。

水をぶっかけたのにマッチの火を消せてなかったり、中盤で開拓民が掘り当てた金塊が幾らなんでもデカすぎたり、所々で奇妙な描写があるのはご愛敬。またロマンスに関しても母子双方から惚れられるのはやり過ぎ感はあるし、神秘的な主人公に性愛の要素を持たせたのは些か疑問だった。というか相棒的存在となるハルにロマンス面でもう少し花を持たせてやってほしかった。そんなこんなで思うところもあるけど、王道にして超自然的な粗筋や画面構築の秀逸さ、何よりもイーストウッドの魅力によって最後まで引っ張られるのは流石。
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