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日本のいちばん長い日のpanpieのレビュー・感想・評価

日本のいちばん長い日(1967年製作の映画)
5.0
昨年フォローしているクワンさんとあーさんの素晴らしいレビューを読んで心打たれ今作を知った。
どうしても終戦記念日に観ようとその時点で決めていた。
恥ずかしながら岡本喜八監督作品は観ておらず今作が初めて。
残念ながらその日にレビューをあげるのは間に合わなかった。



1945年(昭和20年)8月14日。
7月末に軍が無線を傍受しアメリカ、イギリス、中国から出されたポツダム宣言を受諾するかしないかをいよいよ突きつけられた。
ポツダム宣言を受諾するとは敗戦を意味していた。
軍の強硬な反対もありなかなか決まらずグズグズと結論を先延ばしにしているうちに8月6日広島に、8月9日長崎に原子爆弾が落とされた。
その間に内閣や軍で何度話し合っても折り合いがつかずとうとう天皇を交えての御前会議でようやく天皇の鶴の一声でポツダム宣言を受諾すると決まった。
だが陸軍は本土決戦で必ずや勝つと信じており上官は天皇にこれ以上逆らってはいけないと抑えていたが、若い血気盛んな青年将校達には例え天皇の命令ではあっても日本の負けを素直に認める事が出来ない。
玉音放送を流す15日正午迄の怒涛の一日を描いた傑作。


あらためて玉音放送が無事に滞りなく予定通り行われた事に観終わって心底安堵した。
こんなに沢山の人々が携わってやっと録音が終わってほっとしたのも束の間収まりのつかない一部の陸軍将校が極秘に決起し玉音放送を中止する為に強引に起こした宮城(きゅうじょう)事件を緊張が解けない長い長い157分を詳細に描いている。
2015年のリメイク版もいずれ観ようと思っているが昭和の名優達の演技を堪能したくてまずは1967年版から。
クワンさんのレビューにもあったが本当に「シンゴジラ」の様だった。
お偉いさんが大わらわで慌ただしく右往左往し、一瞬だけの出演者も多数、まさに「シンゴジラ」そのものだ。
70人以上の俳優陣の鬼気迫る演技はリアリティに溢れその場に居合わせたかのよう。
臨場感が凄い。




↓ここからネタバレあります。↓







戦時中であっても未だに刀を用いて襲撃するシーンに驚いた。
上官が決起しないと知るや否や刀で襲いかかる。
助けに入る部下の首はバッサリと切り落とされ白黒映画だったが赤い血が飛び散りそこら中を赤く染めてるかの様な迫力に私の目には映った。
決起する側も玉音放送に間に合わせない為にバレないうちに事を進めなければならず異常に焦っており、それなのに上官を殺害した事でもう何が起ころうと必ずくい止める的な間違った正義とでもいうのかそういう空気が漂い最早支離滅裂だ。
何だか戦国時代の謀反と同じに見える。
実は今フォローしているきざしさんからオススメいただいた2006年のNHK大河ドラマ「功名が辻」にハマっていて今作で昭和の動乱期があまりにも私の好きな戦国時代の価値観に近いのでは?と思った。
実際天皇の録音盤を探しに行き立て籠もっている事を籠城と言っていたし武士の時代から軍国主義を貫く大戦迄脈々と受け継がれている日本人の志の深さは変わっていなかったのかもしれない。
死んでも忠義を尽くすなんて今の日本人には全く理解できず、大戦前と後では同じ日本人とも思えない。
それ程思想とは根深く大戦後は意識改革が本当に大変だったことだろう。

顔のアップが凄い。
三船敏郎、笠智衆、黒沢年雄、それぞれの立場と気持ちが無言のアップの顔から滲み出ている。
三船敏郎の演技は本当に凄い。
何度も天皇に考えを改めるよう嘆願するも聞き入れてもらえず叶えられないと知り引き際も誠の軍人らしく口を真一文字に硬く結び奥歯を噛み締め無念を滲ませた顔のアップは本物の軍人にしか見えない。
鈴木総理を演じた笠智衆がひょうひょうとしていて本物の鈴木総理はどんな方かは分からないがとても良かった。
三船敏郎演じる阿南陸相から葉巻を譲り受けるシーンは今生の別れを告げに来た阿南の気持ちが伝わって互いに見つめ合うシーンは短かったが、意見の相違はあったものの最後には互いを認めて功労を讃え合う姿にじんときた。
226事件に次いで宮城事件でも鈴木総理の暗殺に動いた軍人も描かれていた。
政治から退いた晩年を過ごした千葉県野田市に鈴木貫太郎記念館が建てられたそうだ。
軍を抑え命を幾度も狙われだが終戦に導いた功績は大きい。
いつか行ってみたい。

話が逸れてしまったが玉音放送を録音するにあたりマイクの前に天皇を立たせるなどと以ての外と言う台詞から分かる様に当時の天皇陛下は神と同等だった。
神のお言葉は絶対であると教え込まれたのにはいそうですかとあっさりとは認められない日本軍の未練を演じた、現代においてはいささか大袈裟だと思う黒沢年雄の演技は当時の若い軍人のやりきれない思いをよく表現していて宮城事件に関与した軍人達は本当にこんな有様だったのだろう。
阿南と同じく揺るがない信念を持って自決する筈だった高橋悦史演じる井田中佐は黒沢年雄演じる畑中少佐の熱意に以外にもあっさりと心を動かされてしまう。
彼の中でも揺れていたのだろう。
井田は上層部へ奔走するが結果的に上は動かずむしろ森近衛師団長を殺害した手助けをしてしまった事の方が問われると気付いても後の祭りだった。
破竹の勢いで勝ち続けてきた日本軍の最後はさぞや無念だったと思うがあの時玉音放送にこぎつけた事はこんなにも大変な事だったのかと今迄考えてみた事がなかったので当時関わった人達の命を賭けた行動に驚かされ感動した。

キャストに仲代達矢と松本幸四郎の名前があるものの作中で確認できなかったので調べてみたら仲代達矢はナレーションで声のみの出演だった。
何だか勿体ない。
松本幸四郎は昭和天皇を演じており公開時にはまだ昭和天皇は存命で特別な配慮からクレジットに名前を出さなかったそうだ。
確かに正面から天皇を映す事はなく映しても顎から下しか映されていない。
当時は天皇陛下を見たらバチが当たる、目が潰れると言われたそうだが映像にはその点も当時の日本をリアルに描いていて納得した。


三船敏郎が演じた阿南陸相の最期の言葉が忘れられない。
「生き残った人々が二度とこのような惨めな日を迎えないような日本に、何としてもそのような日本に再建してもらいたい」
あの日自決した多くの軍人が今の日本を見る事が出来たならどう思うのだろうか。
彼らの死は本当に無駄ではなかったのか。

ラストで画面いっぱいに大きな文字で書かれた戦死者300万人と言う文字が目を飛び込んでくる。
ナレーションは続く。
「今私達はこのようなおびただしい同朋の血と汗と涙であがなった平和を確かめ
そして日本と日本人の上に再びこのような日が訪れないことを願うのみである。
ただ それだけを…」


今でも大きな声で言っていいのかと躊躇してしまうのだが敗戦して本当に良かったと心から思う。
敗戦したからこそ軍国主義の時代が終わり今日の日本があり私達が生きている。
日本は敗戦から民主主義国家に生まれ変わり自由な国になった今果たして阿南の遺言した通りの日本に再建されただろうか。
終戦の日を迎えた8月15日、またあらためて平和について考えたいと思う。




今作で400本目のレビューになりました。
やっと400本されど400本!
ここまで長い道のりでした〜!
まだまだ道半ばだけどこの先はまだまだ程遠く何処に向かっているのか時々分からなくなったり脱線したり思い込みで間違ったり凝り固まった私を優しく諭してくれるフォローしていただいた皆様、いつもいいねやコメントをいただき本当にありがとうございます。
本当に感謝の言葉が尽きません。
やっとなんとか400本を迎えることができました。
これから何処に向かうのか分かりませんがマイペースで細々と続けていけたらなぁと思っています。
これからもどうぞよろしくお願いします。m(_ _)m
panpie

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