こたつむり

日本のいちばん長い日のこたつむりのレビュー・感想・評価

日本のいちばん長い日(1967年製作の映画)
4.8
● 黙祷

昭和20年8月15日。
本作はその一日を見事に描いた作品。
モノクロゆえに、太い筆でグイっと書ききった線のように大胆かつ鮮やか、そして緻密でした。

だから、登場人物の名前を憶えられなくとも。
彼らの放つ聞きなれない単語を理解できずとも。問題はありません。ただただ激動の一日に身を委ねれば良いのです。

なるほど。
『シン・ゴジラ』が本作を下敷きにした…という意味もよく解りました。現代人から見れば、終戦も核ミサイルも大震災もゴジラも等しい災厄。そう考えると腑に落ちたのです。

そして、僕は思いました。
その日は敗北した日ではなく、今の日本が始まった日である、と。僕らが呼吸し、陽の光に照らされて、水しぶきに歓声を上げる“平和”の第一歩であった、と。前向きに捉えるべきなのです。

何よりも大切なのは糸を紡ぐこと。
僕より上の世代は、過去を厭うあまりに縦の糸を分断しましたが、それは確実に誤り。世界は横の糸と縦の糸を組み合わせて構築されていますからね。常に糸車を回し続けなければなりません。

また、先人が祈った僕らの行く末。
それは残酷なパワーバランスの上の綱渡り。
肝要なのは、ひたすらに真っ直ぐ歩むことでしょう。気を抜けば赤き血だまりに落ちるか、凍てつく金属の上に落ちるのか…悲劇が待っていますからね。

ちなみに現状はバランスを取れているでしょうかね?理念が先行した知識人の言葉に踊らされて、同胞が流す血を軽んじていませんか?理不尽な隣国に対して毅然とした態度を取っていても、平和の二文字に縛られて弱気になっていませんか?

右に偏るでもなく、左に逸れるでもなく。
「言うは易く行うは難し」ですが、道を外さぬように揺蕩いながらも歩を進めたいものです。

まあ、そんなわけで。
日本人ならば鑑賞必須の作品。
先人に祈りを。
そして、明日を生きる子どもたちに祈りを。
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