マーヴィン・ルロイ監督が「仮面の米国」(1932)の翌年に手掛けた隠れた秀作。開拓民の家に生まれ“牛肉王”に成り上がった男の70余年の一生を通してアメリカ近代史を映し出す人間ドラマ。主演と脚本は「科学者の道」(1936)でそれぞれオスカー受賞するポール・ムニとシェリダン・ギブニー。撮影は同監督「風雲児アドヴァース」(1936)でオスカー受賞した名匠トニー・ガウディオ。原題「The World Changes」。
1856年ダコタ州。西部開拓民の夫婦オーリンとアンナ(アリーン・マクマホン)は荒野に農場を開き。息子オリンが生まれる。1877年、カウボーイとして成長したオリン(ポール・ムニ)は立身出世への野心を抱き、幼馴染の恋人セルマを置いてシカゴへと旅立つ。やがて食肉会社の社長令嬢ジニー(メアリー・アスター)と出会い結婚。1880年代後半に氷冷式鉄道車両を開発しついに億万長者に上り詰める。しかし家底生活は順調にはいかなかった。。。
西部劇のその先の現実、1929年の世界大恐慌の入口までを描いていて興味深かった。主人公が一直線に出世街道を進む中、5人の女性たちがドラマを転がしている。【起】たくましくぶれない母アンナ&幼馴染の恋人セルマ【承】ブルジョワ育ちの妻ジニー【転】息子の悪妻ジェニファー【結】孫の嫁となるセルマの孫娘(セルマと一人二役)と、邦題はストーリーを言い表していた。
実業家を主人公にアメリカ資本主義の光と闇を描く大河ドラマが1930年代前半に既に作られていた事は発見。尺が90分なのでややダイジェスト感があり、主人公の結婚に至った動機など内面描写が物足りない場面もあったが、やろうとしていることは後の「ゴッドファーザー」三部作(1972~)を想起させる壮大な人生ドラマで見応えがあった。メアリー・アスターの発狂シーンも印象深い。個人的にはオスカー4部門受賞したルロイ監督による人生ドラマ「風雲児アドヴァース」(1936)よりも面白かった。
※主人公のプロフィールは実在のアメリカ実業家で食肉用の冷凍鉄道車両を開発したグスタフス・フランクリン・スウィフト(1839 - 1903)をモデルにしている