イチロヲ

鬼婆のイチロヲのレビュー・感想・評価

鬼婆(1964年製作の映画)
4.5
彷徨い歩いてくる落ち武者を殺害して、その身包みを剥ぐことで生計を立てている二人組の女が、敗軍の将から鬼面を奪ったのを契機にして、人智を超えた恐怖現象に見舞われてしまう。南北朝末期、武家社会へと変革する過渡期を舞台にして、仏教思想に基づいた物語を綴っている、純和風のホラー映画。

本作は新藤兼人監督が自身の最高傑作の位置付けにしていることでも有名。監督いわく「独立系でやりたいことをやり尽くした」とのことだが、乙羽信子のオールヌードは検閲により部分的にカットされたらしい。(ちなみに進藤監督は70年代の日活ロマンポルノ裁判で、法廷にて日活側を弁護している)

本作の主人公は、ブニュエル監督「忘れられた人々」の登場人物と同じように、犯罪行為に及ばないと生きていけない境遇のなかにいる。「妬み(ねたみ)僻み(ひがみ)嫉み(そねみ)」の心理と、人間が有する欲求のうち最大級のエネルギーをもつ「性欲」がうごめく世界で生きている人間の、崖っぷち生活が繰り広げられる。

生きるためにひたすら食べて、その場凌ぎの快楽と種の存続のために異性の体を求めていく。それを繰り返しているだけなのに、倫理的な部分において「善きこと・悪しきこと」が玉石混交してしまう不条理性。乙羽信子と吉村実子の実在感が半端ないだけに、心が突き動かされる感覚は甚大。