TS

鬼婆のTSのレビュー・感想・評価

鬼婆(1964年製作の映画)
3.9
【中世の農民の欲望】82点
ーーーーーーーー
監督:新藤兼人
製作国:日本
ジャンル:ホラー
収録時間:100分
ーーーーーーーー
日本が世界に誇るホラー映画の一つ。タイトルからして唆られる作品であり、中身も十分に面白く、そして恐ろしい。14世紀の南北朝時代の日本を描いた作品でして、男の帰りを待つ嫁と姑、無事に帰還してくる近隣の男による嫉妬劇であります。『人間』の時といい、新藤兼人は役者に魂を吹き込むのが巧みであると感じました。暗闇の中に役者たちが放つ目力は相当忘れがたいものがあります。

嫁と姑は生きるべく、彷徨ってきた落ち武者を殺し、彼らの物品を追い剥いでいきます。そして、夫は戦で死んでしまい途方にくれていたところ、近隣の男が戦から帰ってきます。ここでムラムラしてくるのか、若い嫁は毎晩姑の目を奪い、男の家に行っては情事を行ない続けます。それに嫉妬した姑が鬼の仮面を手に入れ制裁を加えてやろうというものです。わかりやすいストーリーであるにも関わらず、中盤以降どんどん凄惨な状況になっていき、終盤は最早ホラー映画。小さい子がこれを見たらあの鬼の仮面は中々忘れられないでしょう。

人間の生存本能、そして性への執着。そういうものが見事に溶け込んだ映画でありました。そして中世の人々はやはり地獄の概念に恐れを抱き、地獄に行くことのないように生活をしていたということが垣間見れました。あらゆる科学的根拠の乏しいこの時代、高尚な存在のものが地獄はあると言えば確実にあると思わざるを得ない。これは日本だけでなくヨーロッパなどの他地域でも同じだったでしょう。そのあたりも実にリアルでありました。

全編不気味な雰囲気を醸し出す今作ですが、日本よりも海外での知名度が高い模様。ぜひ見ていただきたい一品です。
TS

TS