TOSHI

幸福(しあわせ)のTOSHIのレビュー・感想・評価

幸福(しあわせ)(1964年製作の映画)
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私は約10年前に、大体、過去の主要な作品は観終えたと思ったが、とんでもない。その後も毎年何本も、こんな映画があったのかと驚嘆させられる作品に遭遇し続けている。本作も、その極めつけとも言える作品だった。ジャック・ドゥミとアニエス・ヴァルダの特集上映の一本。ヌーヴェルヴァーグの作家の中でも、政治運動に関わったゴダール・トリューフォーらとは違い、好きな映画を撮り続けたと言われる、ドゥミとヴァルダ。実生活で夫婦だった二人だが、作風からは、ドゥミがロマンティストなら、ヴァルダはリアリストだろう。そしてドゥミが追求したのは、映画的な奇跡による幸福で、ヴァルダが追求した幸福は、現実と繋がった幸福とも言えるだろう。

オープニング、手をつないだ家族が仲良さそうにこちらに歩いてくる。手前にはひまわりの花。幸せそうな風景だ。しかしどことなく、違和感が感じられる。徐々に、ひまわりが下を向いているのである。美しいが、不気味な幕開けだ。
フランソワ(ジャン=クロード・ドルオ)は、妻のテレーズ(クレール・ドルオ)と二人の子供達と共に、幸せな日々を過ごしていた。
前半、森の中での家族のピクニックや、フランソワの内装業としての仕事ぶりが、淡々と描かれるが、本当に何ということはない普通の生活の描写にも関わらず、原色をあしらった室内や服装等の映像のハッとする美しさに、引き込まれる。
そんなある日、フランソワは、郵便局で働くエミリ(マリー=フランス・ボワイエ)という美女に出会い、一目惚れし恋に落ちる。しかし一方で、フランソワは妻のことも心から愛していた。不倫をしているのに、罪悪感が感じられず、無邪気で幸せ一杯なフランソワの様子に驚く。エミリから「私と奥さんの、二人とも愛しているの?」と聞かれたフランソワの、「そうだよ、妻は植物的で、君は動物的だ。どちらも愛している。とても幸せなんだ」というセリフには、戦慄を感じた。フランソワが女性を抱いているショットが次々と変わっていき、抱いているのがエミリなのかテレーズなのか分からなくなっていく演出も衝撃だ。フランソワは遂に、テレーズにエミリのことを告白し、理解を得たように思えた事から高揚するが…。オープニングと同様、家族が森の中を一緒に歩いているが、テレーズがエミリに置き換わっている映像が、また美しくも不気味だ。

人は誰でも、幸福を求める生き物である。しかし、幸福とは何なのか。自分が幸福なら、相手も幸福なのか。普通の幸せな生活に潜む狂気を見せつけられ、ショックを受けた。派手な仕掛けや俳優の演技に依存せず、力のある映像と卓越したストーリーテリングで観客を圧倒する。これがヌーヴェルヴァーグの本質である、作家主義の映画だと唸らされた。
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