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幸福(しあわせ)のakrutmのレビュー・感想・評価

幸福(しあわせ)(1964年製作の映画)
4.7
フランソワとテレーズ夫婦、二人の子供の四人家族が郊外にピクニックに出かけているシーンから始まる本作の前半は、誰が見ても幸福な家族の典型像を描いている。しかし、フランソワがエミリーと不倫をするようになり、そのことを妻のテレーズが知るに至って、幸福な家族像が崩れていく、ように見える。しかし、最後は再び幸福な家族のピクニックシーンで終わる。

ストーリー的にはいたって単純であるが、この映画は観賞者に強烈な印象を残す。特に、この映画が制作された1960年代前半は、女性は家庭で夫を支えながら子育てをすることが最高の幸せであるという社会通念が強かった時代。そのような時代に、自立した女性エミリーが最終的に幸せを掴むという本映画は、当時はかなりの批判を受け、非道徳的であるという理由から18禁に指定されている。さすがにヌーヴェルヴァーグの祖母と呼ばれるアニエス・ヴァルダだけあって、最後に非道徳的な幸福像をずばっと提示する先鋭さには脱帽するしかないし、ジャック・ドゥミ同様の色使いなども素敵である。夫婦がペアルックを着ているラストシーンは、まさに男女平等時代に向けての新しい夫婦像を象徴していると言えよう。

しかし、幸福とは何かに関して、異なる見方をすることも可能である。あくまでも前妻の不幸によって成立したフランソワとエミリーの幸福は、はたして心の底から幸福と言えるのであろうか。例えば、映画の中で使われている音楽に注目してみると、明らかに前半の曲調と最後の方の曲調が異なっている。それを、新たな幸福像への高揚感と捉えることも可能であるが、将来に来るべき不幸を暗示しているようにも聞こえてしまう。

結局のところ、何を幸福と考えるかは個人によって異なるであろう。しかし確実なのは、50年を経た現在でも全く新鮮さを失わない本作品のクオリティーの高さである。フランソワを演じるジャン=クロード・ドルオーの現実での家族(妻と二人の子供)がそのままテレーズとその子供を演じている点も、そのクオリティーの高さに貢献しているであろう。
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