三畳

幸福(しあわせ)の三畳のレビュー・感想・評価

幸福(しあわせ)(1964年製作の映画)
4.3
悪びれない色男。
車線変更するみたいな気軽さでなめらかに、オープンに、いったりきたり。

各種SNSでオチを知ってたので最初からハラハラしながら観てたんだけど、いつまでも、軽快で牧歌的な音楽が鳴り響く。道を踏み外しそうになるシーンでも、妻に打ち明けるシーンでも、悲劇の後も、それらしい不穏なBGMにぜんぜんならない。

この男の頭の中はずっとこんな調子だったと思う。
ほんとに幸せいっぱいで、罪悪感なんてなくて。
ラストの新家族ピクニックの幸せそうなシーンだけ初めて雰囲気の違う音楽で、初めて観客目線で責めてるような感じがした。

この男はそりゃあもう非難轟々だけど私はこの価値観がなんか分かる気がしてる。愛してしまったものはしゃーない、なぜ一人に絞らないといけないの?という考え方だから、悪意もないから隠しもしない。浮気性より重症。
そういう人けっこう一定数実在してる。天然人たらしみたいな人。

不倫の倫はみちと読む。そのみちは「人の道」であって、それを踏み外すと「動物」になるそうです。
この倫理観の欠落した男はとっても動物的で、でもそもそも人間も動物の一種だから、本能に従うことを過ちと判断しようがないってスタンスに好感がもてた。

自殺するのも人間だけって言うし、シンプル動物男にはその悲しみが単純に理解できなかったんだと思う。薄情とは違う、ただ愛する人が消えてしまって悲しいってだけで、自分が苦しめたとは思ってない。

自身のオリジナル理論を周囲にも理解してもらうことを強いるのは呆れちゃうけど。心にもない誤魔化しを並べたり、礼儀として嘘をつく男の方が、世間的評価が当然のように高いのはどうか。

元妻はオシャレでカラフルな服を着てたのに対して、新妻は統一感あるコーデが多くて家族でも色をお揃いにする。音楽で責めたからコーデで幸せまとまり家族感を出したのかな。場面切り替えで赤青緑のフェードなのが面白かったけど意味するところは分からなかった。ミシンを扱う手、花を飾る手、テーブルを整える手、顔を写さない女性の手だけの2回の画面。