『八十日間世界一周』と言えば、すぐヴィクター・ヤングのスコアにのせて気球が悠々と大空を舞う美しいシーンが思い起こされる。
しかしジュール・ヴェルヌの原作にはこの気球が登場しない。この映画のオリジナルなのだそうな。
新進プロデューサーのマイケル・トッドが多額の資金を調達して製作した超大作。
新開発のトッドAO式(『オクラホマ!』で最初に使用された)による超大型画面と一流スターたちのカメオ出演で話題をかっさらい、同年の『十戒』や『ジャイアンツ』を抑えて本作はオスカーに輝いた。
なお市販やレンタルされているDVDには音声解説がおまけでついていて、撮影の裏話やマイケル・トッドがどういう人物だったのかがわかって結構面白い。
マイケル・トッドは本作でオスカーを獲得した同年、天下のエリザベス・テイラーと結婚してまさに人生の絶頂にいながら、その翌年に飛行機事故死するという大変ドラマチックな人生を歩んでいる。
ちなみにスタンダードからワイドスクリーンへの切り替わりを印象づける冒頭のロケット発射シーンは、記録映像から取ってきたのではなく、トッドの要望で本作のために新たに撮影された映像である。
映画一本のために本当にロケット飛ばすなんて……。恐るべし、マイケル・トッド。
会員制クラブのメンバーで変人のフォグ(演:デヴィッド・ニーヴン)は仲間との賭けで、八十日間で世界一周する冒険に出掛ける。
従者のパスパルトゥ(演:カンティンフラス)を引き連れて、気球を筆頭に船や汽車、挙げ句の果てには象の背中に乗って世界を廻る。
旅の途中、銀行強盗と間違えられ刑事(演:ロバート・ニュートン)に付け狙われ、インドでは命を助けた姫(演:シャーリー・マクレーン)が合流する。
今の感覚でいえばテンポがゆったりしていることは否めない。例えばスペインでのカンティンフラスの闘牛シーンなど結構尺が長くてダレを感じた。
このシーンが何故長く尺を取っているかというと、メキシコの国民的スターであるカンティンフラスの露出を増やすことでラテン圏の観客を多く動員する目論みがマイケル・トッドにあったという。
ちなみにこのパスパルトゥという役名はマスターキーという意味らしく、さらにはパスポートの意味も込められているという。
あとやっぱり日本描写が変なのに苦笑してしまう。
今回、鎌倉、京都でロケしているが、日本ロケでは現地の撮影所からカツラを借りているせいか髷の形がちゃんとしているのが、スタジオでの撮影シーンに切り替わると急に変な髪型になるので、すぐアメリカ本国で撮影しているのがわかってしまう。
最後に本作にカメオ出演したスターについて一応ここでも書いておく。本編でもエンディングクレジットで登場順にキャストの名前がでてくるところに親切を感じる。
(イギリス会員制クラブ面々)
ハーコート・ウィリアムズ
フィンレイ・カリー
ロバート・モーレイ
ベイジル・シドニー
ロナルド・スクワイア
トレヴァー・ハワード
(イギリス第一部のみ)
ノエル・カワード
ジョン・ギールグッド
(フランス)
マルティーヌ・キャロル
フェルナンデル
イヴリン・キース
シャルル・ボワイエ
(スペイン)
ホセ・グレコ
ギルバート・ローランド
シーザー・ロメロ
ルイーズ・M・ドミンガン
(スエズ)
アラン・モーブレイ
セドリック・ハードウィック
ウォルター・キングスフォード
(インド)
レジナルド・デニー
ロナルド・コールマン
ロバート・カバル
(タイ)
メルビル・クーパー
(香港)
フィリップ・アーン
チャールズ・コバーン
(日本)
ピーター・ローレ
(イギリス第二部のみ)
ハーミオン・ジンゴールド
グリニス・ジョンズ
ジョン・ミルズ
ビアトリス・リリー
(アメリカ)
ジョージ・ラフト
マレーネ・ディートリッヒ
レッド・スケルトン
フランク・シナトラ
ジョン・キャラダイン
バスター・キートン
ティム・マッコイ
ジョー・E・ブラウン
(大西洋上)
ジャック・オーキー
ヴィクター・マクラグレン
エドマンド・ロウ
アンディ・ディヴァイン
■映画 DATA==========================
監督:マイケル・アンダーソン
脚本:S・J・ペレルマン/ジェームズ・ポー/ジョン・ファロー
製作:マイケル・トッド
音楽:ヴィクター・ヤング
撮影:ライオネル・リンドン
公開:1956年10月17日(米)/1957年7月20日(日)