垂直落下式サミング

スパイダーマン2の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

スパイダーマン2(2004年製作の映画)
5.0
高校を卒業して理系大学生になったピーター・パーカーが、普段は一般人として生活しながら、ニューヨークのピンチにはスパイダーマンとなって活躍していくヒーロー映画の続編。だが、いきなりピザ屋のバイトをクビになって、変わらぬ貧乏学生暮らし、恋愛もうまく行かないし、親友との関係も険悪になって、科学者として尊敬していた師が敵になってしまう。
こういった経緯から、私生活とヒーロー活動を両立できずに心身ともに不調をきたして、ついにスパイダーマンを引退。このスランプからもう一度立ち直る過程がドラマとして丁寧に積み重ねられていてる。前作よりも、試練が主人公の内面に迫っており、物語がハードさを増す第二幕。世評に違わず名作じゃないですか。
ずっと昔にみたきりだから、ノーウェイホームの予告で出てきても、誰だったかわかんなかったドクター・オクトパスだったけど、これがバチコリと名悪役だった。温厚そうなアルフレッド・モリーナのつぶらな瞳をサングラスで封じることで、見事に恰幅のいい悪漢に仕上がっている。
優秀な科学者で、人格者で、家庭人としても尊敬できる人物だったのに、自らのエゴのために実験を中断しなかった判断ミスで愛する奥さんを失ってしまうなど、実験成功に執着する経緯が丁寧すぎる程しっかりと描かれていた。悪人になってしまうのも、犠牲になって死んでいくのも、ちゃんと理由があって切なかったな。
中折れ帽にトレンチコートの悪党が、めちゃめちゃベタに真っ昼間から銀行強盗して、なりゆきで人質になった老齢のメイおばさんに戦闘的な見せ場があるなど、漫画っぽいばかばかしさが溢れる。アクションの動きのなかでのユーモアを大切にしているのが、サム・ライミ版の好きなところ。
予算が二億ドルもしくはそれ以上とも言われる超大作だから、グラフィックも超進化。1でもすごかった摩天楼を自由落下しながらの縦横無尽のスパイダースイングが全面展開しており、これ一本で大満足な出来映え。
なにしろ、映画ファンたちが何回も口の端にかけてきたであろう電車の名シーン。これも、文句無しに素晴らしかった。ここで提示されるヒーロー論は普遍的な正しさを持っていて、まったく古びない。「誰の心にもヒーローはいる」っていうメイおばさんの言葉から、スパイダーマンの正体を知った乗客たちが彼を助けて、絶対に勝てない相手に立ち向かおうとするシーンに繋がる。ひとりの正義と善意がみんなに波及していく流れは、この世で最も神聖な瞬間にすら思える。
あと、もうひとつ。再鑑賞して見えてきたのはヒロインのこと。童貞小僧には、このシリーズのメリー・ジェーンが嫌われてる理由がよくわからなかったけど、いやあー、なるほど!コイツって相当に嫌なオンナっすわ!男をスペックでしかみてなさそうな阿婆擦れちゃん。港区女子系、神田うの派!
でも、ピーター君のほうもルックスだとか幼馴染みだとか、そういうのでしか異性をみれてないお子ちゃまなので、その意味でつり合いの取れたカップルだと思う。
この歳になると、アパートの大家の娘とか、新聞社のおねえさんとか、しっかりと地に足ついてる女の人のほうに目移りしてしまう。夢見るお姫様ヒロインよりも、ちゃんと生活してたり、シャキッとして働いてたり、そういう女の人のほうがいいなって見えます。
サム・ライミのシリーズは、前作のシーンをイラストにしたダイジェストで振り返ってくれるので、これもなかなか親切でした。