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それからのkouのレビュー・感想・評価

それから(1985年製作の映画)
3.0
《個性と古典の融合》
森田芳光監督。松田優作主演。夏目漱石の同名小説を原作にした作品。森田芳光監督ならではの奇をてらう演出と、古典が合わないかと見る前は思っていたのだが、見ると不思議な融合を果たしている作品だと思う。

あらすじについて書くまでもないかもしれないが、父親の援助で特に仕事もしない長井代助(松田優作)の家に、ある日大学時代の友人平岡(小林薫)がやってくる。かつて恋した平岡の妻、三千代(藤谷美和子)と出会うことで代助の心が揺れ動いていく。

「それから」という作品では三千代という女性のはかなく、失われそうな存在感、それだからこその「美しさ」というのが物語の大きな部分になると思うのだが、今作の藤谷美和子がその役柄にとてもあっていたと思う。「さみしくっていけないから、また来てちょうだい」とつぶやくセリフや、息を切らせてやってきた三千代が花瓶の水を飲む場面など、観ていても心が揺さぶられる。

また、代助の狂気というのが盛り上がっていく後半も見どころだろう。後半、彼はすべてを捨てて三千代と一緒になる決意をする。世間で働くことをせず、親の援助を受けていた彼が、見捨てられ一人になる。その後の、ある意味の狂気のようなもの、そして、そこに至るまでの不穏さを感じさせる後半に惹きつけられた。

例えば電車でのシーンが何度か出るが、不思議なそのカットはまさに森田芳光監督らしい。その不思議な味わいも「それから」という作品の持つ味わいに相まって面白かったと思う。
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