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チ・ン・ピ・ラのMOCOのレビュー・感想・評価

チ・ン・ピ・ラ(1984年製作の映画)
3.5
「夏だったなぁ、蒸し暑くてシャツ一枚で昼寝してたんだ。
なんか人が触っている気配がして目を覚ましたんだ。
 そしたらお袋がシャツめくってるじゃないビックリしてさ『何すんだよ息子の裸見てえのかよ、やらしいな』って言ってやったんだよ。
 お袋が言うには『俺が身体中に刺青しているって、島中で噂になってる』って・・・。
 俺はそのころ綺麗なからだだったからシャツを脱いでやったんだ。そしたらお袋なんて言ったと思う?
『明日から道歩くときは裸で歩け』ってさ」


 ディスコのフロアーで白いスーツに身を包みダンスする男(道夫=ジョニー大倉)は、テーブル席の3人組からの痛烈なヤジを無視をしてダンスを続けます。
 フロアーの客は怖くなりテーブルに散っていき3人組のヤジはエスカレートし灰皿を床に叩きつけ、テーブルを倒し「踊るのをやめろ」と詰め寄ります。
 ダンスをする男の連れと思われるフロアー横のテーブルで飲んでいたサングラスをした白いスーツの男(洋一=柴田恭兵)は3人組のリーダー格の前に立ちはだかると無言で銃を抜き引き金を引くと男の胸から血と肉片が飛び散り・・・。
 発砲を機にディスコの客は大パニック、ディスコを抜け出したスーツの2人はカマロに乗り逃走していきます。

 白いスーツの兄貴分の道夫はもう30才、2人はヤクザにはなりたくない、なる機会を失った「チンピラ」なのです。

 2人はヤクザの親分大谷の下で競馬のノミ行為を行い、飲食店でチンピラの抗争劇のサプライズイベントで小塚い稼ぎをしながら生活をしているのです。

 大谷からシャブの包みを預かり永い時間が過ぎたある日、洋一は大谷が刺された知らせを受け事務所に呼び出されるのですが、ノミ行為で大穴を開けた道夫が穴埋めにシャブを横流したことを知らされます。
 シャブを返すよう言われた道夫は動揺して大谷を刺して逃走したのです。

 洋一は道夫を探しだして連れて来るように言われ、街は道夫の包囲網が敷かれます。
 街中を探し回った洋一は以前上京した頃の思い出を話したデパート屋上で道夫を発見します。
 道夫を屋上に残し再び街に出た洋一は国外逃亡の船を手配しデパートに戻り逃走を実行するのですがデパートの出口で5人組のヤクザに見つかってしまいます。その中にはノミ行為の仲間(下っ端)のひとしがいました。
 ひとしはいきなり銃を抜くと3発の銃弾を道夫に浴びせ、洋一の胸には1発を浴びせると5人は現場から立ち去っていきます。

 洋一は傷ついた体で血まみれで瀕死の道夫をカマロに乗せると手配した船の港へむかうのですが、すでに道夫は・・・。

 
 脚本した金子正次氏は四国の小さな島で生まれ、突っ張った学生時代を過ごし、ヤクザに強い憧れをもち高校を中退し上京します。
 ヤクザになれなかった金子氏はヤクザ映画を作る強い願望があり、俳優仲間の松田優作氏は名前が売れ始めて差をつけられていたことからどうしても自分が主演のヤクザ映画を制作したかったのです。
 金子氏は地元の小さな島では「ヤクザになっている」と噂されているのです。映画の中で洋一は金子氏の代わりに語り始めます。

 
 自主制作した『竜二』は全国主要都市五、六館の限定ロードショーで封切りされた後評価が高まっていきました。金子氏は映画公開期間中に胃癌性腹膜炎で亡くなられ、私が『竜二』を初めて知ったのも亡くなられた後のことでした。
 金子正次氏は『竜二』で第7回日本アカデミー賞 新人俳優賞 、 第26回ブルーリボン賞 新人賞 を受賞しています。

「チ・ン・ピ・ラ」は『竜二』以前に脚本されたのですが、無名の金子正次氏が主人公としてキャスティングされていたために映像化されませんでしたが、金子氏が亡くなられた後、盟友 川島透監督の手で映像化されました。

『 沙耶のいる透視図」で脚光を浴びた高樹沙耶さんがその2年前1984年に洋一の恋人役でスクリーンデビューし初々しいヌードを披露し、道夫の恋人として若い石田えりさんが出演されています。

 柴田恭兵氏を主役に据えたことで洋一のリアル感は薄くなってしまったのですが、このキャスティングがもう動かなくなってしまった道夫を船に乗せようと叫びながら引き摺り歩くシーンを活かしています。その演出は、さすが川島透監督と言えるリアル感があります。

 そして洋一が船員を相手にラジオの競馬中継を聞いていると・・・。
 それっていったいどこから始まっていたの・・・という展開が待っています。

 遠い昔、才能を開花しようとしていた33才の若い金子正次氏を亡くしたのは本当に損失だったのかもしれません。
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