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トラベラーのHKのレビュー・感想・評価

トラベラー(1974年製作の映画)
3.7
トラ年ですから・・・その⑦《コジツケ編》
はい、“トラ”ベラーです。
ネタ切れのためここからの作品選びは完全なコジツケです。
本作はイランの名匠アッバス・キアロスタミの初期の長編。
私は同監督作を観るのは2作目で、かのジグザグ道3部作は未見です。

イランの田舎町に住む主人公(10才の少年)はサッカー熱がエスカレートして宿題はしない学校はサボる、さらに有名選手の出る都会のサッカー試合を見に行きたさに親の金を盗み人の金も騙し取るという筋金入りの問題児。
ついに資金調達に成功した少年は、親にも告げずこっそり夜行バスに乗り込みます・・・

物語の後半、単身都会に向かう少年がタイトルの“トラベラー”となるわけです。
超悪ガキ版の初めてのお使いならぬ初めてのサッカー観戦と言いましょうか。
目的のためどんな苦難にもくじけない執念は認めますが、散々悪事を働いた悪ガキですから感情移入はできないのに、この先どうなるのか目が離せなくなります。

モノクロながら映像はクリア、しかも素人の出演者たちとゲリラ撮影による子供たちの表情が素晴らしく、まるでドキュメンタリーのようにリアルなテイストです。
途中、主人公がフィルムの入っていないカメラで子供たちから撮影料を騙し取るシーンは、被写体の子供たちの表情がよければよいほど反比例して胸が痛む名シーン。

しかし、イランがこれほどサッカー人気の高い国だとは知りませんでした。
全く同情には値しない主人公ながら、まだ子供ですから、観終わってからも帰りの交通費が足りたかどうか心配になってしまったりと不思議と気にかかる映画です。
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