ろ

トラベラーのろのレビュー・感想・評価

トラベラー(1974年製作の映画)
5.0

恐ろしげな物を前に、逃げ出したくなった。
底無しの悲しみの中にいた。


ガッセムはサッカーが大好きだった。
宿題をしたと嘘をついて、毎日サッカーをした。

「お前の将来真っ暗だよ。いつまで養わなきゃならないんだろう。サッカーを発明した人のせいだよ」と母さんは嘆く。
学校の先生は躾がなってないと言って、僕の手をバシバシ叩いた。
それでも気持ちは揺るがなかった。
明日、テヘランで試合が見たい。

質屋で万年筆を売ろうとした、おじさんのカメラを売ろうとした。
だけど大人はちっとも相手にしてくれない。
そうだ、みんなの写真を撮ろう。
真剣な顔つきの子、恥ずかしそうに腰に手を当てる子。
ズボンのポケットはだんだん重たくなっていく・・・

田舎から都会に出て、こうして大人たちに交じっていると、自分も大人になった気分だった。
でもチケットは目の前で売り切れてしまうし、転売屋は4倍の値段でしか売ってくれない。
やっとテヘランに来たというのに、夢の中で僕はみんなに囲まれ見下ろされ、やっぱり手を叩かれていた。


再び恐怖が訪れた。この恐怖からはもう逃げられなかった。
一つのことしか考えられなかった。
それは全力で逃げ出すことだった。
ろ