✔️🔸『マダムサタン』(3.6)🔸『仮面の米国』(3.5)🔸『南国の恋歌』(3.5)▶️▶️
プレコードは今見ても安心しては見れないので、フォードやホークス以上に、誰もが納得する映画の醍醐味を体現してる名匠を訪ねたくなる。デミルとルロイ、といった名前だ。誰よりも映画の醍醐味を知っている。
サイレントの鬼才時代から、ハリウッド最大巨匠時代を通じ、デミルはまさに映画そのものだ。ルビッチかと思うと、ミュージカル、大モブシーン統制スペクタクル、品よくも切り上げない恋と色気容姿の悪魔的でもある駆け引き、そして『ポセイドン~』的な特撮とセット傾けのリアルパニックものへ。30年代の代表作『大平原』に匹敵する位見事な映画だ。只、全盛で脂ぎってたサイレント期の危なさはない。そっちで揺るがしてこないから巨匠なのか。
サイレントの名残の退きと寄りのカット切り替え、最適角度変、近接場との対応、切返しよりズレ対応め、大事はアップか小道具、斜め線がカット間結んでもカット独立感残し。そして恋愛ゲームの隠れ・騙し・張合い、多様な上流人詰め込む退きの活力、ミニチュアや合成やセットの逐次ピンチの隙ないうねり。ハイセンスな上流階級やり取りと色気。
夫が親友と朝帰り、JAZZホールの歌手と出来てるらしいとそこへ出向く妻、親友がいて歌手は自分の新妻と説明、家出中の夫が来たので会うのはと歌手の部屋を借りる妻、親友は自分の新妻として毛布に隠れシャイとして妻を示す。親友の主催の飛行船仮面舞踏会でのNo.1美女を競りで決定企画、例の歌手を押さえ悪魔の大胆衣装の大人びた仮面女選らばる、彼女は夫を魅了しその恋燃え上がる、やっと正体は妻の変身と明かすも飛行船事故、他人に献身的に動くも助かった2人、2人円満戻りへ親友が顔出して極め。
「安定した妻とは対極の熱を求め。妻とは結婚前は相棒だったが」「夫はもう妻の私に関心も」「はっきり声を出して愛を告げなくては見捨てられる」「信じて行動起こさずが本当の愛の筈」「愛は保存不可能。充電が必要。夫の僕がうちを出る」「家では仮面の殿方。今、この仮面舞踏会で本当の姿を表しておられる」「熱を上げ地獄へお連れしよう。仮面は外せない、誇りがあるから正体は明かせぬ」「今、正体を知るも、尊敬してたは変わらずだったのに」「尊敬より愛を。愛から歌えたしあの衣装も」「この事故に一緒に脱出を。1人では」「いや、最期まで残る使命がある」
年配、長身、細身、大人し顔、マスクで顔や身体1部を隠しての露出・線強調無理ないドレス、デミルは真の色気の対象とその際立て方を知り抜いてる。古女房見直し以上の映画的スケールと底力。まんま、会心の映画処理に繋がってく。大満足。
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今回の特集にはルロイが3本も入ってる。何か観ようとして、結局何年か前に観たばかりの『仮面~』しか時間がなかった。が、この特集、落ち着かない変な映画ばかりの中、旧い人間はこういうのがいい。晩年はともかく、実に対照的なあちこちジャンルにシフトしていっても、ルロイは安心印だ。面白さを易しく優しくしっくり伝え来る。
社会制度の不備と不条理による、善良な庶民の苦しみと悲劇、そう、今井や薩夫の正統社会派名匠作で親しみあるとテーマを、確度から速度・迫真力から泪までハリウッドのあらゆる手法を使いこなし、こっちの溜飲を下げる。
90゜変から切返し、どんでんからL・足元まで、動きや空気による不穏生まれを押さえる空間把握力。友情・思い上がり・当惑・苦痛苦悩・善良・冷静・狂気・ムニら役者の渾身存分演技引き出し、政治や制度と司法の狡猾か冷静かの囲みの操られと誠意。手持ちもあるようなスピーディパンや移動投入、Sプロセスでの運転やコマおとしの車の狂気の暴走速度羅列止まらず、地図とかワイプの効率高い使い方。作家独自魔力には欠けても、堅実でそれぞれに抜き差しならぬ力が詰まってる。
第一次大戦の英雄扱いでミシガン州帰郷も、前の工場出荷事務仕事が待つだけ、軍で覚えた土木技師として、やりたいこと起業を少し思い上がって故郷離れ転々も、飢えてくだけ。他人の強盗共犯とされ、収監も、人権無視、看守非道暴力、常に集団を括る鎖に繋がれ、際立つ抑圧。限界越え脱獄の奇跡的成功。シカゴで次第に脇目ふらず精進社会的成功高めるも、初め部屋提供から妻となった女が離れずは浪費癖充たす為。奇しくも真の愛の対象現る。夫が別れを告げると妻が全てを通報、再逮捕。社会的名士も過去と犯罪歴バレるも、脱獄されたイリノイ州が大赦釈放を約し、その為にも収監期間必要・懲役といっても事務だけと、引き渡しを要求。果たして、前と変わらぬ虐待が待ち受けていた。弁護士らは無罪釈放へ向け、よく働くも敗訴。刑期終える前で耐えられぬと、嘗ての親交仲間らと再脱獄へ。悲哀と絶望が増してゆく。
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『南国~』のカーチスは、上記2人と違い、細部にこだわる職人に留まらぬ、半ば近代的作家かもしれない。物語る先の納得以前に、映画フォルムに惹き付けられる。均質な宇宙を感じる。切返しもアップ拡大も、犯罪に手を染めてく環境と興味、互いの思惑の第三者介入挟んでのチグハグ、セットと光と影の密度クリスタル感、ら。勿論旧くさいリズムや語りも残ってるが、ビルマのラングーンからマンダレーまでと、それらを結ぶ船旅の異国情緒を越えた密度は持って生まれたものか。2人の男に挟まれての決断もストーリー追い詰めより生理的反射的なものによる感じ。フリンとのタッグの中でも『ロビン~』をこの作家のベストと考えるなら、有名な『カサブランカ』(若い頃は駄作にしか見えず、だからアカデミー賞取分け作品賞監督賞は浅はかな時流のりで全く信用ならんと思ってたが、年くってみると、なかなかと思うように)だってそんなパートの耀き自然さの良さだ。
ビルマで表から裏まで勢力を張り巡らし、金と人を押さえ使いまくるボスに翻弄され、密やかな恋人同士ながら、時期はズレるが、拠点を離れるを得ず、移動の船旅に出て、船上で再会の男女。船旅で若い陰日向のない別の男と知り合ってた女は、よりの戻しを当然のように迫られるは困惑でしかなく、彼が死人として処理されることで生き延びてたを利用、海に突き落として記録通りに、現実を合わす事で対処してく。